恋する老年学──人生後半の「ときめき」は、こんなにも尊い

静かな本音~本の中に

00年時代、「恋心」は終わらない

「年をとったら恋なんてしないよね」
そう思っていたのは、ただの思い込みだったと気づかされた一冊が、石川善樹著『恋する老年学』です。

この本は、医学・心理学・社会学などの科学的知見をベースに、老年期の“恋愛感情”を真っ向から肯定する、新しい時代の恋愛論です。しかも読み口は驚くほどやさしく、そして、ちょっぴり照れくさいほど愛おしい。

恋は、老いを遅らせる?

「ときめくこと」は、実は健康や長寿に深く関係している──そう述べる石川氏の言葉に、ハッとしました。

本書には、ドーパミンやオキシトシンなどのホルモンの話が出てきます。たとえば、恋愛中の脳は若返りに似た働きを見せること。笑顔で誰かに会いたいと思う気持ちが、生活を変え、足取りまで軽くしてしまうこと。

科学の裏づけがあることで、「いやいや、自分にはもう関係ない」なんて思っていた心に、ふっと火が灯ります。

恋愛は若者だけのものじゃない

「恋は若者の特権」ではなく、「人生のどの段階にも訪れる可能性がある自然な現象」──これは、本書を貫くテーマの一つです。

老年期の恋愛は、見た目や勢いではなく、「心の深まり」や「安心感」が主役になる。
誰かと一緒にいて、静かに幸せを感じる瞬間。そばにいてくれるだけで、自分の存在を肯定できる喜び。

読み進めるうちに、これはもはや「恋愛」というよりも、「人生のパートナーシップの再発見」だと感じました。

こんなにも、恋は優しいものだった

特に印象に残ったのは、実際の高齢者の恋愛エピソード。
70代で手をつなぐことから始まった恋。80歳を過ぎてから、お互いの生活に寄り添いながら交わす「おやすみ」の一言。

決してドラマティックではないけれど、だからこそリアルで、心を打ちます。
人生の後半だからこそ味わえる、静かなときめき──それがどれほど豊かな感情であるかを、本書は教えてくれます。

恋を、もう一度「選択肢」に入れてみる

「いまさら誰かを好きになるなんて、恥ずかしい」
「家庭もあるし、そんな気持ちは無用だ」
そんな声が自分の中から聞こえるかもしれません。

でも本書を読んだあと、ふと思いました。

「恋をすること」は、誰かを裏切ることではない。
むしろ、自分の心を大事にすることかもしれない。

ときめくことで、表情が変わり、言葉がやさしくなり、体が動き出す。
それは、人間としての「自然な営み」なのかもしれないと。

66歳の私が本書から得たもの

この本を読んで感じたのは、「人生の終盤こそ、心の柔らかさが必要だ」ということです。

年齢を重ねると、どうしても“諦める技術”ばかり上手になってしまいがちです。
でも、それだけじゃもったいない。
心が動く瞬間に、ちゃんと耳を傾けてあげる。
それが、自分らしい老い方なのかもしれません。

「まだまだ恋心を持っていい」
「誰かを好きになってもいい」
「ときめきを楽しんでもいい」

そんな優しい許可を、自分に出せたような気がしています。


おわりに

『恋する老年学』は、恋愛を“若者の娯楽”から“人生の栄養”に変えてくれる一冊です。

誰にも言えなかった恋心。ふいによみがえった過去の想い。
そんな心の揺らぎを否定せず、「それも大切な人生の一部ですよ」とやさしく教えてくれる。

読むだけで、心のどこかがぽっと温まる──
そんな温もりに包まれたい方には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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