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季節の手仕事に込める思いと梅仕事で感じる丁寧な暮らし

散歩する夫婦 食卓の記憶
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梅雨の季節になると、梅の実が店頭に並び始める。それは一年に一度だけ訪れる、季節の手仕事の時間だ。梅仕事に込められた日本の暮らしの知恵と、手を動かすことの意味について考えてみたい。


季節の手仕事には、特別な時間が流れている。梅仕事は、その代表格だ。2025年も6月になると、全国のスーパーや八百屋に青梅が並び始める。梅仕事とは、旬を迎えた梅を使って梅干しや梅酒、梅シロップなどの保存食を作ること。毎年5月中旬から7月中旬の限られた時期にしかできない、日本の風土とともに受け継がれてきた丁寧な暮らしの営みだ。かつては日本各地で見られた光景で、梅雨が明ける頃には梅干しをザルに広げて天日干しする様子が、夏の風物詩でもあった。

梅仕事の魅力は、ただ保存食を作るということだけではない。一つ一つの梅を手に取り、傷がないか確かめ、丁寧に洗い、ヘタを取る。その作業は時間がかかるが、決して無駄な時間ではない。手を動かしながら、心を整えていく時間だ。2025年の調査でも、梅仕事を通じて「暮らしを大切に考えることが何より大事」と語る人が増えている。日常の中にある小さな幸せ、食べるまでの過程を楽しむこと、そこに感謝の気持ちが生まれる。それが、季節の手仕事の本質だ。

梅の実を瓶に詰めていく作業も、静かな喜びに満ちている。青梅と氷砂糖を交互に重ねていくと、美しい層ができる。その瞬間だけは、他のことを考えない。ただ目の前の作業に集中する。丁寧に手を動かすことで、忙しい日々から少し離れられる。梅シロップなら、数日後から少しずつ梅のエキスが染み出し、氷砂糖が溶けていく様子を見守る楽しみがある。毎日瓶を揺すって混ぜながら、変化を確かめる。その時間が、日常に小さな楽しみを加えてくれる。

季節の手仕事は、季節を五感で感じる行為でもある。梅の香り、手に触れる実の感触、瓶の中で変化していく色。視覚、触覚、嗅覚。すべてを使って季節と向き合う。季節を感じながら暮らすことの豊かさを、手仕事は教えてくれる。スーパーに行けば一年中同じ食材が並ぶ現代だが、梅仕事は「今しかできない」ことだ。その限定性が、かえって特別な価値を生む。6月6日は「梅の日」とも定められ、季節の移ろいを大切にする文化が見直されている。

梅仕事を始めると、前の年に仕込んだ梅干しや梅酒を開ける楽しみも生まれる。一年前の自分が作ったものを味わう。時間をかけて熟成した味は、市販品では味わえない深みがある。自分の手で作ったという事実が、味に特別な意味を加える。失敗することもある。カビが生えてしまったり、思ったような味にならなかったり。しかし、それも経験だ。次はこうしよう、と学びながら、毎年少しずつ上達していく。その過程そのものが、季節の手仕事の価値だ。

近年、若い世代にも梅仕事が広がっている。SNSでは「#梅仕事」のハッシュタグで、美しい梅シロップの写真や、初めての梅干し作りの様子が共有されている。子どもと一緒に梅仕事を楽しむ家庭も多い。生の梅の色や香りが、自分の手によってどう変化していくのかを見守ることは、子どもの食育にもぴったりだ。食べ物への感謝、季節への意識、丁寧に作ることの大切さ。そうした価値観が、手仕事を通じて自然と伝わっていく。

季節の手仕事は、梅仕事だけではない。春の山菜採り、夏の果実酒作り、秋の干し柿、冬の味噌仕込み。日本には、季節ごとの保存食作りの文化がある。それらはすべて、季節と共に生きる知恵だった。冷蔵庫もない時代、旬の食材を一年中楽しむための工夫として生まれた。現代では保存のためというより、季節を感じるため、丁寧な時間を持つために行う人が多い。目的は変わっても、その営みが持つ価値は変わらない。


あなたは季節の手仕事をしたことがありますか?梅仕事やその他の保存食作りで、心に残っている体験はありますか?

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