「日本経済はもう成長できない」――そんな諦めの声を、あなたも耳にしたことがあるのではないでしょうか。長引くデフレ、停滞する賃金、少子高齢化。確かに、日本は多くの課題を抱えています。
しかし、衆議院議員・高市早苗氏は『美しく、強く、成長する国へ。私の「日本経済強靱化計画」』で、明確な反論を提示します。日本経済は成長できる。そのための具体的な政策があると。本書で提唱される「サナエノミクス」は、財政出動、金融緩和、規制改革を柱とした大胆な経済政策です。
この本が注目されるのは、単なる理想論ではなく、実現可能な具体策が示されているからです。エネルギー政策、科学技術投資、防災インフラ整備。日本が直面する課題一つひとつに対して、明確な解決策と財源が提示されています。賛否はあるでしょう。しかし、日本の未来を真剣に考えるすべての人に、一読の価値がある一冊です。
書籍の基本情報
- 書籍名: 美しく、強く、成長する国へ。私の「日本経済強靱化計画」
- 著者: 高市早苗(たかいち・さなえ)
- 出版社: ワック株式会社(WAC)
- 発行年: 2021年
- ページ数: 約320ページ
- ジャンル: 保守政治と国家論、経済政策、政治
著者の高市早苗氏は、衆議院議員(奈良2区)。総務大臣、内閣府特命担当大臣(防災)などを歴任。2021年自民党総裁選挙に出馬し、本書で提唱する経済政策「サナエノミクス」が注目を集めました。保守政治家として、安全保障と経済成長の両立を一貫して主張しています。
デフレ脱却こそ最優先課題である
高市氏が本書で最も強調するのが、**「デフレからの完全脱却」**です。日本経済が長年停滞してきた根本原因は、このデフレにあると断言します。
デフレとは、物価が継続的に下落する現象です。一見、物が安く買えて良さそうに思えます。しかし、物価が下がれば企業の売上も減り、賃金も上がらず、消費も減る。このデフレスパイラルが、日本経済を30年近く苦しめてきたのです。
高市氏は、デフレ脱却のために「大胆な財政出動」を主張します。これは、政府が積極的にお金を使い、需要を喚起するということです。公共投資、科学技術への投資、防災インフラの整備。こうした分野に集中的に資金を投入することで、経済を活性化させる。
「財政赤字が膨らむのでは?」という懸念に対して、高市氏は明確に反論します。日本は自国通貨建ての国債を発行しており、財政破綻のリスクは極めて低い。むしろ、デフレ下で緊縮財政を続けることの方が、経済を破壊するのだと。
この主張は、従来の財政健全化一辺倒の議論とは一線を画します。「まず成長させてから、税収増で財政を健全化する」という順序。多くの国民が「なぜ日本は成長しないのか」と感じている今、この視点は新鮮に響くでしょう。
ただし、無制限にお金を使えば良いというわけではありません。高市氏が強調するのは、**「成長につながる分野への戦略的投資」**です。バラマキではなく、日本の競争力を高め、未来への投資となる分野。その見極めが重要なのです。
エネルギー安全保障と経済成長の両立
本書の重要なテーマの一つが、**「エネルギー政策」**です。高市氏は、エネルギーの安定供給こそが、経済安全保障の要だと主張します。
東日本大震災以降、日本は原子力発電所の多くを停止し、火力発電への依存を高めました。その結果、エネルギーコストは上昇し、CO2排出量も増加。さらに、ロシアのウクライナ侵攻による資源価格高騰が、日本経済を直撃しました。
高市氏の提案は明確です。原子力発電の再稼働と、次世代原子炉の開発。再生可能エネルギーも推進するが、ベースロード電源としての原子力は不可欠だと。この主張には賛否があるでしょう。しかし、エネルギー自給率が極めて低い日本にとって、避けて通れない議論です。
また、核融合や小型モジュール炉(SMR)など、次世代技術への投資も提唱されています。こうした技術開発に国が戦略的に投資することで、エネルギー安全保障と技術立国の両立が可能になると。
エネルギー政策は、国民生活に直結します。電気代の高騰は、家計を圧迫し、企業の競争力を削ぎます。「原発反対」という感情論だけでなく、「では代替案は?」「コストは?」という現実的な議論が必要だという高市氏の主張は、考えさせられるものがあります。
カーボンニュートラルという世界的な流れの中で、日本はどうエネルギー政策を構築するのか。この問いに、本書は一つの明確な答えを提示しています。
科学技術立国への戦略的投資
高市氏が最も情熱を込めて語るのが、**「科学技術への投資」**です。日本が再び成長するためには、イノベーションによる生産性向上が不可欠だと。
データは厳しい現実を示しています。日本の研究開発費は、GDP比では先進国の中で決して低くありません。しかし、論文数や特許数では、中国や韓国に追い抜かれつつあります。特に、若手研究者の環境は悪化の一途を辿っています。
高市氏の提案は、10兆円規模の「大学ファンド」の創設と、基礎研究への継続的投資です。短期的な成果を求めるのではなく、10年、20年先を見据えた研究に、国が腰を据えて投資する。この長期的視点が、日本の科学技術を再生させる鍵だと。
また、若手研究者の雇用安定化も重視されています。任期付きポストばかりでは、優秀な人材が研究の道を諦めてしまう。安定したポストと研究費を保証することで、人材流出を防ぐ必要があると。
この主張は、多くの研究者や科学技術に関心のある国民に響くでしょう。「なぜ日本の科学技術は停滞しているのか」という問いに、明確な答えと解決策が示されているからです。
AI、量子コンピューター、バイオテクノロジー。次の時代を作る技術で、日本が主導権を握れるか。それは、今どれだけ投資するかにかかっている。高市氏のメッセージは、未来への警鐘でもあるのです。
防災インフラ整備が命と経済を守る
日本は災害大国です。地震、台風、豪雨。毎年のように大きな災害が発生し、多くの命と財産が失われています。高市氏は、**「防災インフラ整備」**を、経済政策の柱の一つに据えます。
従来、公共事業は「無駄遣い」として批判されがちでした。しかし、高市氏は問います。「老朽化した橋やトンネルを放置することが、本当に正しいのか」と。インフラの維持・更新は、国民の命を守るために不可欠です。
また、防災インフラ整備は、雇用創出と地方経済活性化にもつながります。建設業は地方の基幹産業です。公共事業が減少したことで、地方の建設業者は疲弊し、災害時の対応力も低下しました。計画的なインフラ投資は、地方を支える力になるのです。
高市氏が提唱するのは、「国土強靱化」の徹底です。南海トラフ地震、首都直下地震。これらの巨大災害は「いつか来る」のではなく、「必ず来る」のです。その時のために、今できる限りの備えをする。それが政治の責任だと。
この主張には、多くの国民が共感するでしょう。災害のたびに「想定外だった」と繰り返すのではなく、想定される最悪の事態に備える。その覚悟が、国民の命を守ることにつながるのです。
防災投資は「コスト」ではなく「投資」だという視点。これは、公共事業に対する見方を変える可能性があります。
安全保障と経済の一体的強化
本書の特徴は、経済政策と安全保障政策を一体として論じている点です。高市氏は、経済力なき安全保障はあり得ないと主張します。
ロシアのウクライナ侵攻、中国の軍事的台頭。日本を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しいと言われています。しかし、防衛力強化には財源が必要です。その財源は、経済成長によってしか生み出せません。
高市氏は、防衛費のGDP比2%達成を明確に主張します。これは、NATO基準に合わせたものです。「軍備拡張だ」という批判もあるでしょう。しかし、高市氏は反論します。日本を守るのは、まず日本自身だと。
また、経済安全保障の重要性も強調されています。半導体、レアアース、医薬品。重要物資を他国に依存しすぎることは、危機時のリスクになる。サプライチェーンの強靱化、国内生産能力の維持。これらは、経済と安全保障の両面から重要なのです。
この視点は、コロナ禍やウクライナ危機を経験した今、多くの国民が実感していることでしょう。グローバル化の恩恵を受けつつも、いざという時に自国で対応できる力を持つ。そのバランスが問われています。
高市氏の主張は、保守政治家らしい安全保障重視の姿勢ですが、それを実現するための経済政策とセットで語られている点が、説得力を持っています。
現代社会での応用・実践
では、『美しく、強く、成長する国へ』から得た学びを、私たち国民はどう活かせばいいでしょうか。
まず、経済政策への関心を持つこと。日本経済がなぜ停滞しているのか、どうすれば成長できるのか。この本を読むことで、一つの明確な視点が得られます。賛同するかは別として、考える材料になります。
次に、長期的視点を持つこと。科学技術への投資、インフラ整備、人材育成。これらはすべて、すぐには結果が出ません。しかし、10年後、20年後の日本を作るのは、今の投資です。目先の損得だけでなく、未来を見据える視点が大切です。
また、地域経済を支える意識を持つこと。地方のインフラ、中小企業、地域産業。これらが衰退すれば、災害時の対応力も低下します。自分の住む地域を支えることが、日本全体を強くすることにつながります。
さらに、政策を自分で評価する力を養うこと。政治家の主張を鵜呑みにするのではなく、「本当にそうか?」と考える。データを見る、他の意見も聞く。そうした姿勢が、民主主義を成熟させます。
最後に、投票に行くこと。どんな政策を支持するかは、最終的には選挙で決まります。無関心でいることは、現状を追認することです。未来を選ぶ権利を、しっかり行使しましょう。
どんな方に読んでもらいたいか
『美しく、強く、成長する国へ』は、日本の未来を真剣に考えたいすべての人に読んでいただきたい一冊です。
まず、若い世代には必読です。これから日本を担う世代として、国の経済政策がどうあるべきか。自分たちの未来を自分で考える材料として、この本は重要な視点を提供してくれます。
ビジネスパーソン、経営者の方々にも。日本経済の行方は、企業活動に直結します。政府がどんな政策を取るのか、それが自社にどう影響するのか。経済政策を理解することは、ビジネス戦略の一部です。
地方在住の方々にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。地方経済の衰退、インフラの老朽化。こうした問題への具体的な解決策が示されています。地方再生の可能性を考えるヒントがあります。
また、政治に関心はあるが専門的な知識はない、という方にも適しています。本書は専門用語を避け、わかりやすく書かれています。経済政策の入門書としても優れています。
そして、異なる政治的立場の人にこそ読んでほしいのです。賛同できない部分もあるでしょう。しかし、対話の前提は、相手の主張を正確に理解することです。建設的な議論のために、まず知ることが大切です。
関連書籍5冊紹介
本書の理解を深め、多角的に経済政策を考えるための関連書籍を紹介します。
1. 『国運の分岐点』(中野剛志著、PHP新書)
経済思想家による日本経済論。MMT(現代貨幣理論)の視点から、財政政策を論じます。高市氏の主張と共通する部分が多く、理論的背景を理解するのに役立ちます。デフレ脱却の重要性を、別の角度から学べます。
2. 『日本経済は復活する』(高橋洋一著、PHP研究所)
元財務官僚による経済政策論。データに基づいた分析で、日本経済の処方箋を示します。財政出動の効果を、統計的に理解できます。高市氏の政策の実現可能性を、専門家の視点から検証する参考に。
3. 『デフレの正体』(藤巻健史著、角川oneテーマ21)
日本のデフレ構造を分析した名著。なぜ日本は長期デフレに陥ったのか。その構造を理解することで、高市氏の政策の必要性がより深く理解できます。経済政策の前提知識として最適。
4. 『国家の品格』(藤原正彦著、新潮新書)
数学者による国家論。経済だけでなく、日本の精神性、教育、文化を論じます。高市氏の「美しい国」という理念の背景を理解するために。経済と精神性の両面から日本を考える視点。
5. 『日本の未来を考えよう』(櫻井よしこ著、新潮新書)
ジャーナリストによる日本の進路論。安全保障、憲法、教育など幅広いテーマを扱います。高市氏と同じ保守的立場から、総合的な国家戦略を考える参考に。女性の視点からのリーダーシップ論としても興味深い。
まとめ
『美しく、強く、成長する国へ』は、停滞する日本経済への明確な処方箋を示した政策論です。高市早苗氏が提唱する「サナエノミクス」は、財政出動、科学技術投資、エネルギー安全保障、防災インフラ整備を柱とした、大胆で具体的な経済政策です。
この本の価値は、単なる理想論ではなく、実現可能性を考慮した具体策が示されている点にあります。財源、実施方法、期待される効果。一つひとつの政策が、丁寧に説明されています。
もちろん、すべてに賛同する必要はありません。原発再稼働、防衛費増額、大規模財政出動。それぞれに異なる意見があるでしょう。しかし、対案なき批判ではなく、建設的な議論のために、まず相手の主張を正確に理解することが大切です。
日本は今、岐路に立っています。このまま停滞を続けるのか、再び成長軌道に乗るのか。その選択は、私たち国民一人ひとりにかかっています。政治家の仕事は政策を示すこと。国民の仕事は、それを評価し、選択することです。
もしあなたが、日本の未来に関心があるなら。もしあなたが、経済政策について考えたいなら。もしあなたが、次の選挙で何を基準に投票すべきか迷っているなら。この本を手に取ってみてください。賛成するにせよ、反対するにせよ、考えるための材料として、必ず役立つはずです。

