「一日三食しっかり食べることが健康の基本」――そう信じてきた常識が、今、大きく揺らいでいます。むしろ、「食べ過ぎ」こそが、現代人の様々な不調の原因なのではないか。そんな問いかけから始まるのが、医学博士・青木厚氏の『「空腹」こそ最強のクスリ』です。
本書が提唱するのは、「16時間断食」という革新的な健康法。1日の中で16時間、何も食べない時間を作る。たったそれだけで、体の中で驚くべき変化が起こると青木氏は説きます。それが「オートファジー」という、細胞の自食作用です。
この本が50万部を超えるベストセラーになったのは、方法がシンプルで、効果が実感しやすいからでしょう。難しいカロリー計算も、厳しい食事制限も不要。睡眠時間を含めて16時間空ければいいだけ。その手軽さと、科学的な裏付けが、多くの人の心を捉えたのです。
書籍の基本情報
- 書籍名: 「空腹」こそ最強のクスリ
- 著者: 青木厚（あおき・あつし）
- 出版社: アスコム
- 発行年: 2019年
- ページ数: 約190ページ
- ジャンル: 身体実践学、健康、栄養学
著者の青木厚氏は、あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。医学博士として、糖尿病や生活習慣病の治療に携わる中で、断食療法の効果を実感。本書では、最新の医学研究に基づきながら、わかりやすく実践的な方法を提示しています。発売以来、累計50万部を超える大ヒットとなりました。
オートファジーが細胞を若返らせる
青木氏が本書で最も強調するのが、「オートファジー」という細胞の仕組みです。これは2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、大隅良典氏の研究で注目を集めた現象です。
オートファジーとは、細胞が自分の中の古くなったタンパク質を分解し、新しいタンパク質を作り出す仕組みのこと。簡単に言えば、細胞の大掃除とリサイクルです。この働きにより、細胞は常に新鮮な状態を保ち、若々しさを維持できます。
このオートファジーが最も活発になるのが、空腹の時間。特に、最後の食事から16時間経過すると、オートファジーが大きく加速すると言われています。つまり、空腹こそが、細胞を若返らせる最強の方法なのです。
具体的には、どんな効果が期待できるのでしょうか。青木氏は、以下のような効果を挙げています。老化の予防、免疫力の向上、生活習慣病の改善、ダイエット効果、肌の若返り。これらすべてが、オートファジーの活性化によってもたらされると。
「本当にそんな効果があるの？」と疑問に思う方もいるでしょう。しかし、青木氏は医師として、実際に患者さんに16時間断食を勧め、多くの改善例を見てきたと言います。血糖値が下がった、体重が減った、体調が良くなった。こうした実際の声が、本書の説得力を高めています。
また、オートファジーは単なるダイエット法ではありません。むしろ、根本的な健康法です。細胞レベルで体を若返らせることで、様々な病気の予防にもつながる。この視点が、他のダイエット本とは一線を画すところです。
16時間断食の具体的な実践方法
では、具体的にどう実践すればいいのでしょうか。青木氏が提案するのは、**「睡眠時間を含めて16時間」**という、非常にシンプルな方法です。
例えば、夜8時に夕食を終えたとします。そこから16時間後は、翌日の昼12時。つまり、朝食を抜いて、昼食から食べ始めればいい。これなら、そこまでハードルは高くないのではないでしょうか。
もちろん、最初は空腹がつらいかもしれません。青木氏も、それは認めています。しかし、慣れてくると、むしろ朝食を食べない方が体が軽く、頭もスッキリすると感じる人が多いと言います。また、どうしても空腹がつらい場合は、ナッツ類を少量食べてもいいと、柔軟な提案もされています。
16時間という数字にこだわりすぎる必要もありません。最初は12時間から始めて、徐々に延ばしていく。週末だけ実践する。こうした無理のない始め方も推奨されています。完璧を目指さず、自分のペースで続けることが大切なのです。
また、16時間以外の8時間は、基本的に何を食べてもいいというのも、この方法の魅力です。もちろん、栄養バランスを考えた食事が理想的ですが、厳しい制限はない。このゆるさが、長く続けられる秘訣なのです。
青木氏は、自身も16時間断食を実践しており、体重が減り、体調が改善したと語っています。医師自身が実践し、効果を実感している。この事実が、読者に「自分もやってみよう」という気持ちにさせるのです。
食べ過ぎが引き起こす健康被害
青木氏が本書で警鐘を鳴らすのが、現代人の「食べ過ぎ」問題です。私たちは、一日三食が当たり前だと思っていますが、実はこれは比較的新しい習慣。人類の長い歴史の中で、こんなに頻繁に食べるようになったのは、ここ数十年のことなのです。
人間の体は、本来、飢餓に強く設計されています。獲物が取れない時期も、数日間食べなくても生き延びられる仕組みが備わっています。しかし、現代のように常に食べ物がある環境は、人類史上、初めての経験なのです。
その結果、何が起こっているか。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症。いわゆる生活習慣病が蔓延しています。青木氏は、これらの多くが「食べ過ぎ」に起因すると指摘します。胃腸は休む暇もなく働き続け、消化にエネルギーを使い果たす。その結果、細胞の修復や再生に回すエネルギーが不足するのです。
また、食後の血糖値の急上昇も問題です。炭水化物を多く含む食事を頻繁に摂ると、血糖値が乱高下し、インスリンが過剰に分泌されます。これが繰り返されると、インスリンの効きが悪くなり、糖尿病につながります。16時間断食は、この血糖値の安定化にも効果があると、青木氏は説明します。
さらに、腸内環境の改善も期待できます。常に食べ物が入ってくる状態では、腸は休めません。16時間の空腹時間を作ることで、腸が休息でき、腸内環境が整います。近年の研究で、腸内環境が全身の健康に大きく影響することがわかってきており、この点も重要です。
「でも、朝食を抜くのは体に悪いのでは？」という疑問もあるでしょう。しかし、青木氏は、科学的根拠はないと断言します。むしろ、朝食を抜くことで得られる効果の方が大きいと。この説明を読むと、長年の常識が揺らぐのを感じます。
16時間断食がもたらす具体的な効果
では、16時間断食を実践すると、具体的にどんな変化が起こるのでしょうか。青木氏は、患者さんや実践者の声を基に、様々な効果を紹介しています。
第一に、体重減少とダイエット効果。これは多くの人が期待する効果でしょう。16時間断食を続けることで、自然と摂取カロリーが減り、体重が落ちていきます。しかし、単なるカロリー制限ダイエットとは違い、筋肉量を維持しながら脂肪を減らせるのが特徴です。
第二に、血糖値とインスリンの改善。糖尿病や糖尿病予備軍の方にとって、これは朗報です。16時間断食により、血糖値が安定し、インスリンの効きが良くなります。実際、青木氏のクリニックでは、糖尿病の数値が改善した患者さんが多数いるそうです。
第三に、疲労感の軽減と活力の向上。これは意外に思われるかもしれません。食べないと力が出ないのでは？しかし、実際には逆。常に消化にエネルギーを使っている状態から解放されることで、体が軽く、頭がスッキリすると感じる人が多いのです。
第四に、肌の調子の改善。オートファジーにより細胞が新しくなることで、肌のターンオーバーも正常化します。シミ、シワ、ニキビなどの改善が期待できます。美容面での効果を実感して、続けるモチベーションになっている人も多いようです。
第五に、集中力と思考力の向上。空腹時には、脳がより活性化するという研究もあります。また、血糖値が安定することで、集中力が持続しやすくなります。仕事や勉強のパフォーマンスが上がったという声も多く聞かれます。
これらの効果は、個人差はあるものの、多くの実践者が実感していると青木氏は言います。そして、効果を実感することが、続けるモチベーションになる。この好循環が、16時間断食の継続につながるのです。
無理なく続けるためのコツと注意点
青木氏は、16時間断食の効果を強調する一方で、無理なく続けるためのコツも丁寧に説明しています。
まず、最初から完璧を目指さないこと。いきなり毎日16時間は難しいかもしれません。週に2〜3日から始める、12時間から徐々に延ばす。こうした段階的なアプローチが推奨されています。
また、空腹がつらいときの対処法も示されています。水、お茶、ブラックコーヒーなどの無糖の飲み物は自由に飲んでいい。どうしても耐えられない場合は、ナッツ類を少量食べる。この柔軟性が、挫折を防ぎます。
さらに、食べていい8時間の過ごし方も重要です。「どうせ8時間だけだから」と暴飲暴食してしまっては意味がありません。栄養バランスを考え、腹八分目を心がける。ただし、厳しい制限はなく、好きなものを楽しむことも大切だと青木氏は言います。
注意点も明確に示されています。妊娠中や授乳中の女性、成長期の子ども、持病がある方は、医師に相談してから始めること。また、体調が悪いときは無理をしない。自分の体の声を聞くことが、最も重要だと強調されています。
青木氏の語り口は、決して押し付けがましくありません。「試してみてください」「自分に合った方法を見つけてください」という、温かいメッセージが全体に流れています。この姿勢が、読者に安心感を与え、実践への一歩を後押しするのです。
現代社会での応用・実践
では、『「空腹」こそ最強のクスリ』から得た知識を、どう日々の生活に活かせばいいでしょうか。
まず、朝食を抜く生活パターンを試してみること。多くの人にとって、これが最も実践しやすい方法です。夜8時に夕食を終え、翌日の昼12時まで食べない。睡眠時間を含めれば、意外と簡単に16時間は作れます。
次に、週末から始めるのもおすすめです。平日はいきなり難しいという人は、土日だけ試してみる。体調の変化を確認しながら、徐々に頻度を増やしていく。無理のないペースが大切です。
また、記録をつけることも効果的です。体重、体調、気分。日々の変化を記録することで、効果が見えやすくなります。そして、効果を実感することが、続けるモチベーションになります。
さらに、家族や友人と一緒に始めるのも良い方法です。一人では挫折しがちでも、仲間がいれば励まし合えます。情報を共有し、成功体験を分かち合う。このコミュニティの力も、継続の鍵です。
最後に、完璧を目指さないこと。たまには朝食を食べる日があってもいい。付き合いで夜遅く食事することもあるでしょう。それで罪悪感を持つ必要はありません。長く続けることが大切であり、そのためには柔軟性が必要なのです。
どんな方に読んでもらいたいか
『「空腹」こそ最強のクスリ』は、健康に関心のあるすべての人に読んでいただきたい一冊です。
まず、ダイエットに悩んでいる方には必読です。様々なダイエットを試して失敗してきた人も、この方法なら続けられるかもしれません。シンプルで、科学的根拠があるダイエット法として、試す価値があります。
生活習慣病が気になる方、健康診断の数値が悪化している方にも。糖尿病、高血圧、脂質異常症。これらの改善に、16時間断食は効果が期待できます。薬に頼る前に、生活習慣の改善を試してみませんか。
また、疲れやすい、体調がすぐれないという方にも。原因不明の不調が、実は「食べ過ぎ」だったというケースは少なくありません。16時間断食で、体の本来の力を取り戻すことができるかもしれません。
アンチエイジングに興味がある方にもおすすめです。オートファジーによる細胞の若返り。これは、高価な化粧品やサプリメントよりも、根本的なアンチエイジング法かもしれません。
そして、忙しいビジネスパーソンにも。朝食を作る時間が省ける、仕事中の集中力が上がる。時間的にも、パフォーマンス的にも、メリットは大きいはずです。
関連書籍5冊紹介
断食や健康的な食生活について、さらに理解を深めるための書籍を紹介します。
1. 『医者が教える食事術 最強の教科書』（牧田善二著、ダイヤモンド社）
糖尿病専門医による、血糖値を中心とした食事法。16時間断食と併せて、何を食べるべきかを学べます。科学的根拠に基づいた食事の知識が、より深い理解につながります。
2. 『オートファジー 最強の健康法』（水島昇著、PHP研究所）
ノーベル賞受賞研究のオートファジーについて、専門家が詳しく解説。16時間断食の科学的メカニズムを、より深く理解したい方におすすめです。
3. 『食べない健康法』（石原結實著、PHP文庫）
医師による断食療法の解説。16時間断食だけでなく、様々な断食法を紹介。断食の多様なアプローチを知ることで、自分に合った方法が見つかるかもしれません。
4. 『スタンフォード式 最高の睡眠』（西野精治著、サンマーク出版）
※既にレビュー済みですが、睡眠と断食は密接に関連します。良質な睡眠が16時間断食の成功を支え、逆に断食が睡眠の質を向上させます。相乗効果を得るために、併せて読むことをおすすめします。
5. 『腸がすべて』（フランク・ラポルト=アダムスキー著、SBクリエイティブ）
腸の専門家による健康法。断食が腸内環境を改善することを、別の角度から理解できます。腸の健康と全身の健康の関係を学ぶことで、断食の効果をより実感できるでしょう。
まとめ
『「空腹」こそ最強のクスリ』は、シンプルで科学的な健康法を提示した革新的な一冊です。青木厚氏が提唱する16時間断食は、難しいカロリー計算も厳しい食事制限も不要。ただ、16時間食べない時間を作るだけ。
この本の価値は、方法のシンプルさと、科学的根拠の確かさにあります。オートファジーという、ノーベル賞を受賞した研究に基づいた健康法。それを、誰でも実践できる形で提示してくれています。
また、無理なく続けるための工夫、注意点、よくある質問への回答。実践者の立場に立った、親切な説明も本書の魅力です。青木氏の温かい語り口が、**「自分にもできそう」**という気持ちにさせてくれます。
現代人の多くが、食べ過ぎによる健康被害に苦しんでいます。肥満、生活習慣病、原因不明の不調。これらの多くが、シンプルな解決法――16時間断食――で改善する可能性があるのです。
もしあなたが、健康に不安を感じているなら。もしあなたが、ダイエットに挑戦したいなら。もしあなたが、若々しく健康に生きたいなら。この本を手に取ってみてください。あなたの人生を変える、最強のクスリが、ここにあります。
