「よく眠れない」「朝起きても疲れが取れない」「日中に眠くなる」――こうした悩みを抱えていませんか。忙しい現代社会で、質の高い睡眠を得ることは、多くの人にとって切実な問題です。
スタンフォード大学睡眠研究所所長の西野精治氏による『スタンフォード式 最高の睡眠』は、世界最先端の睡眠研究から導き出された、科学的に正しい睡眠法を提示する一冊です。単なる睡眠時間の長さではなく、「睡眠の質」こそが重要だと西野氏は説きます。
特に画期的なのが、「入眠後最初の90分」が最も重要という発見です。この「黄金の90分」をいかに深く眠るかで、その日の睡眠の質が決まる。そして、その質を高めるための具体的な方法が、科学的根拠とともに示されています。すぐに実践できる、人生を変える睡眠の知識がここにあります。
書籍の基本情報
- 書籍名: スタンフォード式 最高の睡眠
- 著者: 西野精治(にしの・せいじ)
- 出版社: サンマーク出版
- 発行年: 2017年
- ページ数: 約250ページ
- ジャンル: 身体実践学、健康、睡眠科学
著者の西野精治氏は、スタンフォード大学医学部精神科教授であり、同大学睡眠生体リズム研究所所長。睡眠研究の世界的権威です。本書は発売以来、累計100万部を超えるベストセラーとなり、日本人の睡眠に対する意識を大きく変えました。科学的根拠に基づきながら、実践しやすい内容が特徴です。
黄金の90分が睡眠の質を決める
西野氏が本書で最も強調するのが、「入眠後最初の90分」の重要性です。睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返しますが、最初の90分のノンレム睡眠が、最も深く、最も重要なのです。
この最初の90分で、成長ホルモンの約80%が分泌されます。成長ホルモンは、子どもの成長だけでなく、大人にとっても細胞の修復や代謝に不可欠です。また、記憶の整理や、免疫機能の強化も、この時間に行われます。つまり、最初の90分の質が、その日の睡眠全体の質を決定するのです。
逆に言えば、たとえ8時間眠っても、最初の90分が浅ければ、睡眠の恩恵は得られません。一方、忙しくて6時間しか眠れなくても、最初の90分が深ければ、かなりの効果が期待できます。この発見は、「睡眠時間を確保できない」と悩む現代人に、大きな希望を与えてくれます。
では、どうすればこの黄金の90分を深くできるのか。西野氏は、体温と脳のスイッチが鍵だと説明します。人間の体温は、日中高く、夜間低くなります。この体温の低下が、深い眠りを誘います。また、脳が覚醒状態から休息状態に切り替わることも重要です。
この科学的な説明を読むと、「なるほど、だから夏は眠りが浅いのか」「寝る前のスマホが良くないのはそういう理由か」と、多くの謎が解けます。知識があれば、対策も立てられる。それが、この本の大きな価値なのです。
体温コントロールで深い眠りを実現する
西野氏が提唱する具体的な方法の一つが、**「体温コントロール」**です。深い睡眠のためには、就寝時に深部体温(体の内部の温度)を下げる必要があります。
そのために最も効果的なのが、**「就寝90分前の入浴」**です。お風呂に入ると、深部体温は一時的に上がります。しかし、その後、体は熱を放散して体温を下げようとします。この下降のタイミングと就寝時刻を合わせることで、自然に深い眠りに入れるのです。
お湯の温度は40度程度、入浴時間は15分程度が理想的。熱すぎるお風呂は交感神経を刺激し、逆に目が覚めてしまいます。また、就寝直前の入浴も、体温が下がる前に寝ることになるため、避けるべきです。90分前という絶妙なタイミングが、科学的に最適なのです。
もし入浴の時間がない場合は、足湯でも効果があります。足には多くの血管があり、ここを温めることで、全身の血流が良くなり、熱の放散が促進されます。忙しい日でも、足湯なら10分でできるのが嬉しいところです。
また、寝室の温度も重要です。少し涼しめの方が、深部体温を下げやすい。夏は冷房、冬は暖房を上手に使い、室温を18〜19度程度に保つのが理想的だと西野氏は言います。
この体温コントロールの知識は、すぐに実践できます。多くの読者が「今夜から試してみよう」と思うのではないでしょうか。難しいことではなく、ちょっとした工夫。それで睡眠の質が劇的に改善するなら、やらない手はありません。
脳のスイッチを切る夜の習慣
睡眠の質を高めるもう一つの鍵が、**「脳のスイッチを切る」**ことです。現代人の多くが、寝る直前までスマホを見たり、仕事のことを考えたりしています。これでは、脳が覚醒したまま。良い睡眠は得られません。
西野氏が特に警鐘を鳴らすのが、ブルーライトの影響です。スマホやパソコンの画面から出るブルーライトは、脳を「昼間だ」と錯覚させ、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。就寝1時間前には、スマホを見ないことが理想的です。
「でも、寝る前のスマホがリラックスになっている」という人もいるでしょう。しかし、それは錯覚だと西野氏は言います。実際には、脳は刺激され続けており、リラックスとは逆の状態。その結果、寝つきが悪くなり、睡眠も浅くなるのです。
では、代わりに何をすれば良いのか。西野氏が勧めるのは、「単調な行動」です。軽いストレッチ、ゆっくりとした呼吸、静かな音楽。こうした単調で穏やかな活動が、脳をリラックスさせ、睡眠モードに切り替えます。
また、「考え事をしない」ことも重要です。仕事の悩み、明日の予定。こうしたことを考え始めると、脳は活性化してしまいます。もし考え事が浮かんだら、メモに書き出して、明日考えることにする。この儀式が、脳に「今は考えなくていい」というメッセージを送るのです。
この「脳のスイッチを切る」習慣は、多くの現代人にとって、最も改善しやすいポイントかもしれません。スマホをやめる、考え事をやめる。シンプルですが、効果は絶大です。
朝の目覚め方が一日を決める
西野氏は、睡眠の質は「寝る時」だけでなく、**「起きる時」**も重要だと説きます。どんなに深く眠っても、目覚め方が悪ければ、一日中ぼんやりしてしまいます。
理想的な目覚め方は、レム睡眠中に起きることです。レム睡眠は浅い睡眠で、夢を見ている状態。このタイミングで起きれば、スッキリと目覚められます。逆に、深いノンレム睡眠中に無理やり起こされると、強い眠気と倦怠感が残ります。
では、どうすればレム睡眠のタイミングで起きられるのか。西野氏が推奨するのが、「光」の利用です。朝日を浴びることで、体内時計がリセットされ、自然に覚醒します。カーテンを少し開けて寝る、起床時刻に合わせて照明をつける。こうした工夫が、自然な目覚めを促します。
また、起床後すぐに冷たい水で顔を洗うことも効果的です。冷たい刺激が交感神経を活性化し、脳と体を目覚めさせます。さらに、朝食をしっかり食べることで、体温が上がり、完全に覚醒モードに入ります。
「どうしても起きられない」という人には、二度寝の正しい方法も紹介されています。アラームを2回かけ、1回目で体を少し動かす。これで浅い睡眠に移行し、2回目のアラームでスッキリ起きられる。ただし、二度寝は20分以内に。それ以上寝ると、かえって逆効果です。
朝の目覚め方一つで、その日のパフォーマンスが変わる。この認識を持つだけでも、生活の質は向上します。
睡眠負債を解消する週末の過ごし方
現代人の多くが抱えているのが、**「睡眠負債」**の問題です。平日の睡眠不足が積み重なり、慢性的な疲労状態に。週末に寝だめしても、なかなか解消できません。
西野氏によれば、睡眠負債は「借金」のようなもの。少しずつ返済していくしかありません。週末に12時間寝ても、一気に返済はできない。むしろ、体内時計が乱れ、月曜日の目覚めがさらに悪くなるという悪循環に陥ります。
では、どうすれば良いのか。西野氏が勧めるのは、週末も平日と同じ時刻に起きることです。「せっかくの休みなのに」と思うかもしれませんが、体内時計を乱さないことの方が重要。どうしても眠い場合は、午後に20〜30分の昼寝をする。これが、睡眠負債を効率的に返済する方法です。
また、平日の睡眠時間を少しでも増やす工夫も必要です。帰宅後のダラダラしたテレビやスマホの時間を減らし、30分でも早く寝る。この積み重ねが、睡眠負債を減らしていきます。
睡眠負債は、集中力の低下、免疫力の低下、肥満、うつ病など、様々な健康問題を引き起こします。逆に、良質な睡眠を確保できれば、仕事のパフォーマンスも、健康状態も、人間関係も改善する。睡眠への投資は、人生への投資なのです。
現代社会での応用・実践
では、『スタンフォード式 最高の睡眠』から得た知識を、どう日々の生活に活かせばいいでしょうか。
まず、就寝90分前の入浴習慣を始めること。これは今日からでも実践できます。お風呂の時間を逆算して、夕食や帰宅時間を調整する。この一つの習慣だけでも、睡眠の質は大きく変わります。
次に、寝室環境を整えること。遮光カーテン、適切な室温、静かな環境。少し投資が必要かもしれませんが、毎日使う寝室の環境は、健康への重要な投資です。
また、夜のスマホ断ちを実践すること。最初は難しいかもしれません。しかし、1週間続ければ習慣になります。代わりに読書や音楽など、穏やかな活動を楽しみましょう。
さらに、朝日を浴びる習慣を持つこと。起きたらカーテンを開ける、通勤時に少し歩く。こうした小さな習慣が、体内時計を整え、夜の良い睡眠につながります。
最後に、睡眠を優先する価値観を持つこと。「寝る時間がもったいない」ではなく、「睡眠こそが最高の自己投資」と考える。この意識の転換が、人生の質を変えていくのです。
どんな方に読んでもらいたいか
『スタンフォード式 最高の睡眠』は、睡眠に悩むすべての人に読んでいただきたい一冊です。
まず、忙しいビジネスパーソンには必読です。限られた睡眠時間で最大の効果を得る方法が、科学的に示されています。仕事のパフォーマンスを上げたい方に、睡眠改善は最も確実な方法です。
不眠に悩む方、睡眠の質に満足していない方にも。なぜ眠れないのか、どうすれば改善できるのか。科学的な理解が、解決への第一歩になります。
また、受験生や学生にもおすすめです。記憶の定着、集中力の向上、ストレス耐性の強化。すべて良質な睡眠が基盤です。勉強の効率を上げたい方は、まず睡眠を改善しましょう。
子育て中の親御さんにも役立ちます。子どもの成長には睡眠が不可欠。また、親自身も睡眠不足になりがち。家族全員の健康のために、正しい睡眠知識を持つことが大切です。
そして、健康寿命を延ばしたいシニア世代にも。加齢とともに睡眠の質は低下します。しかし、適切な方法で、質の高い睡眠は取り戻せるのです。
関連書籍5冊紹介
睡眠と健康について、さらに理解を深めるための書籍を紹介します。
1. 『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(西野精治著、日本文芸社)
本書の著者による、よりビジュアルで分かりやすい入門書。図解で睡眠のメカニズムを理解できます。『スタンフォード式』が難しいと感じた方は、まずこちらから始めるのもおすすめです。
2. 『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』(ショーン・スティーブンソン著、ダイヤモンド社)
アメリカの睡眠コンサルタントによる実践書。食事、運動、環境など、あらゆる角度から睡眠改善にアプローチ。西野氏の本と併せて読むことで、より包括的な知識が得られます。
3. 『4時間半熟睡法』(遠藤拓郎著、フォレスト出版)
睡眠医療の専門医による短時間睡眠法。忙しくて十分な睡眠時間が取れない人向け。90分サイクルを活用した効率的な睡眠法が具体的に示されています。
4. 『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷亮著、ダイヤモンド社)
睡眠だけでなく、日中の休息も含めた総合的な疲労回復法。マインドフルネスや瞑想など、脳を休める科学的方法が学べます。睡眠と併せて実践することで、相乗効果が期待できます。
5. 『スタンフォード式 疲れない体』(山田知生著、サンマーク出版)
スタンフォード大学のスポーツ医学の知見から、疲労回復法を解説。IAP呼吸法など、疲れにくい体を作る方法が満載。睡眠の質を支える体づくりの参考に。
まとめ
『スタンフォード式 最高の睡眠』は、世界最先端の睡眠研究から導き出された、科学的に正しい睡眠法の決定版です。西野精治氏の長年の研究成果が、わかりやすく、実践しやすい形でまとめられています。
この本が教えてくれる最も重要なことは、「睡眠時間より睡眠の質」そして「最初の90分が最も重要」という事実です。忙しくて長時間眠れない現代人にとって、これは希望のメッセージです。短時間でも、質を高めれば効果は得られるのですから。
また、体温コントロール、脳のスイッチ、朝の目覚め方。どれも今日から実践できる具体的な方法です。難しい理論ではなく、ちょっとした工夫の積み重ね。それが、睡眠の質を劇的に改善します。
睡眠は、人生の約3分の1を占めます。その質が変われば、残りの3分の2の質も変わります。仕事のパフォーマンス、健康状態、人間関係、幸福度。すべてが、良質な睡眠から始まるのです。
もしあなたが、睡眠に悩んでいるなら。もしあなたが、もっと充実した毎日を送りたいなら。もしあなたが、健康で長生きしたいなら。この本を手に取ってみてください。あなたの人生を変える、最高の睡眠への道が、ここに示されています。

