SNSを開けば、友人の昇進報告、知人の結婚式の写真、後輩の起業成功のニュース――。そんな他人の幸せに触れたとき、あなたはどんな気持ちになるでしょうか。素直に「おめでとう!」と言えるときもあれば、なぜか心がザワザワして、素直に喜べない自分に気づくこともあるかもしれません。
私も60年以上生きてきて、正直に言えば、他人の成功や幸福を目の当たりにして、複雑な感情を抱いた経験が何度もあります。「いいなあ」という羨ましさや、「なぜ自分ではないのか」という嫉妬にも似た感情。それは決して珍しいことではなく、人間として自然な反応なのです。
しかし、仏教には「随喜(ずいき)」という美しい教えがあります。これは、他人の善行や幸福を、まるで自分のことのように喜ぶという心の在り方です。この随喜の心を持つことで、自分自身の人生も驚くほど豊かになることを、私は経験を通じて学びました。
AI時代を迎え、私たちは日々、膨大な情報に触れています。SNSやニュースアプリを通じて、世界中の人々の喜びや成功を瞬時に知ることができます。だからこそ今、随喜の心を育てることが、メンタルヘルスを守り、豊かな人間関係を築く上で、かつてないほど重要になっているのです。
この記事では、他人の幸せを素直に喜ぶ随喜の力と、それが私たちの人生にもたらす恵みについて、一緒に考えていきたいと思います。
なぜ他人の幸せを素直に喜べないのか
他人の幸福を心から喜べない理由は、実は私たちの心の中にある「比較の煩悩」にあります。人間は本能的に、自分と他者を比べてしまう生き物なのです。
私が40代のころ、同期だった同僚が大きなプロジェクトで成功を収めました。表面上は「おめでとう」と笑顔で言いましたが、心の中では「なぜ自分じゃないんだ」という思いが渦巻いていました。夜、一人になると、その感情に苦しんだことを今でも覚えています。
心理学では、これを「社会的比較理論」と呼びます。私たちは他者と比較することで自分の位置を確認し、自己評価を行います。しかし、この比較が過度になると、劣等感や嫉妬心が生まれ、他人の幸福を素直に喜べなくなってしまうのです。
特に現代は、SNSによって他人の幸せが可視化される時代です。Instagram、Facebook、X(旧Twitter)など、さまざまなプラットフォームで、人々は自分の最高の瞬間を発信します。それを見た私たちは、自分の平凡な日常と比較してしまい、「自分は幸せではない」と感じてしまうことがあります。
AI技術の発達により、パーソナライズされた情報が次々と届くようになりました。アルゴリズムは私たちの興味関心を学習し、関連する情報を提示します。それは便利な反面、自分と似た境遇の人の成功をより多く目にすることになり、比較の機会が増えているとも言えます。
また、日本社会特有の「出る杭は打たれる」という文化的背景も影響しています。誰かが突出して成功すると、無意識に足を引っ張りたくなる心理が働くこともあります。しかし、こうした心の在り方は、結局、自分自身を苦しめることになるのです。
随喜がもたらす心の解放と幸福感
随喜の心を持つことは、実は自分自身を苦しみから解放する最高の方法なのです。他人の幸せを喜ぶことで、私たちの心は驚くほど軽くなり、幸福感が増していきます。
仏教の教えによれば、随喜は「喜びを分かち合う」ことであり、それ自体が功徳(くどく)になるとされています。つまり、他人の善行や幸福を喜ぶことで、自分自身にも良いことが返ってくるという考え方です。これは単なる精神論ではなく、心理学的にも裏付けられています。
ポジティブ心理学の研究では、他者の幸福を喜ぶことが、自分自身の幸福度を高めることが証明されています。これを「共感的喜び」と呼びます。誰かの成功を心から祝福すると、脳内では快楽物質であるドーパミンやセロトニンが分泌され、自分自身も幸せな気持ちになるのです。
私自身、この随喜の心を意識的に実践するようになってから、人生が大きく変わりました。以前は他人の成功を見て落ち込んでいましたが、今では「素晴らしいな」「自分も頑張ろう」と前向きな気持ちになれます。そして不思議なことに、自分自身にも良い出来事が増えていったのです。
随喜の心を持つと、人間関係も驚くほど良好になります。心から相手の幸せを喜べる人は、周囲から信頼され、愛されます。逆に、嫉妬や妬みを抱く人は、自然と人が離れていってしまいます。人は、自分の喜びを共に喜んでくれる人と一緒にいたいと思うものです。
また、随喜は感謝の心とも深く結びついています。他人の幸福を喜べるということは、自分自身が持っているものにも気づけるということです。「あの人にはあれがあるけれど、自分にはこれがある」と、自分の人生の豊かさを再認識できるのです。
AI時代において、**エンパシー(共感力)**はますます重要なスキルとなっています。機械には真似できない人間らしさこそが、これからの時代に求められる資質です。随喜の心を育てることは、まさにこの共感力を高めることにつながるのです。
随喜の心を育てる具体的な実践法
では、どうすれば随喜の心を日常生活の中で育てることができるのでしょうか。私が実践してきた方法を、いくつかご紹介します。
まず大切なのは、比較をやめる意識を持つことです。他人と自分を比べそうになったら、「比較しても意味がない」と自分に言い聞かせます。人それぞれ、育った環境も、持っている才能も、歩んできた道も違います。比較することは、りんごとみかんを比べるようなもので、そもそも無意味なのです。
次に、他人の成功の裏側を想像することです。SNSで見える華やかな瞬間の裏には、必ず努力や苦労があります。「あの人はきっと、見えないところで頑張ったんだろうな」と想像することで、その成功を尊重し、素直に祝福する気持ちが湧いてきます。
私が実践しているのは、「おめでとうメッセージ」を積極的に送ることです。友人や知人の良いニュースを聞いたら、すぐにメッセージやメールで祝福の言葉を伝えます。言葉にして表現することで、自分の心も前向きになり、相手との絆も深まります。AIアシスタントを使って、心のこもったメッセージを考えるのも良いでしょう。
また、感謝日記をつけることもおすすめです。毎日寝る前に、「今日、誰かの幸せを喜べた瞬間」を書き留めます。小さなことでも構いません。隣人の笑顔、同僚の昇進、孫の成長など。書き出すことで、随喜の心が習慣化されていきます。
さらに、マインドフルネス瞑想も効果的です。静かに座り、呼吸に意識を向けながら、「すべての人が幸せでありますように」と心の中で唱えます。これは仏教の「慈悲の瞑想」とも呼ばれ、他者への思いやりと随喜の心を育てる実践法です。
デジタル時代だからこそ、SNSとの付き合い方を見直すことも重要です。他人の投稿を見て落ち込むなら、一時的にアプリを削除したり、通知をオフにしたりするのも一つの方法です。自分の心の平安を最優先にしましょう。
最後に、自分自身を認めることです。他人の幸せを喜ぶためには、まず自分自身が満たされている必要があります。自分の小さな成功や努力を認め、自己肯定感を高めることが、随喜の心を育てる土台になるのです。
随喜が紡ぐ縁と、広がる人生の可能性
随喜の心を持つことで、人との**縁(えにし)**が驚くほど豊かになります。そして、その縁が新たな出会いや機会を運んでくるのです。
私の友人に、常に他人の成功を心から喜び、応援し続けている人がいます。彼女は決して派手な成功を収めているわけではありませんが、周囲には常に人が集まり、困ったときには必ず誰かが助けてくれます。彼女自身が「随喜の実践者」であり、その姿勢が多くの人を惹きつけているのです。
随喜の輪は、巡り巡って自分に返ってきます。あなたが誰かの幸せを喜べば、その人もあなたの幸せを喜んでくれるでしょう。そうした相互の喜びが、強固な信頼関係と深い絆を生み出します。これは、家族、友人、職場、地域社会など、あらゆる人間関係において当てはまります。
AI技術が発達し、バーチャルなつながりが増える現代だからこそ、心と心が通じ合う本物の人間関係が貴重になっています。随喜の心は、デジタルの壁を越えて、人と人を真につなぐ力を持っています。オンラインでのメッセージ一つにも、真心を込めることができるのです。
また、随喜の心を持つことは、世代を超えた理解にもつながります。若い世代の成功を喜び、応援することで、世代間の対話が生まれます。年長者が若者を妬むのではなく、心から祝福することで、互いに学び合える関係が築けるのです。
私自身、孫の世代がAI技術を使いこなし、新しいことに挑戦する姿を見て、心から誇らしく思います。「自分の時代にはこんな技術はなかった」と嘆くのではなく、「素晴らしい時代に生まれたね」と喜ぶことで、世代間の溝は埋まり、お互いの経験を共有し合えるのです。
随喜の心は、社会全体を明るくする力も持っています。一人ひとりが他人の幸せを喜べる社会は、妬みや対立が減り、協力と共感に満ちた社会になります。それは決して理想論ではなく、私たち一人ひとりの心の在り方から始まるのです。
まとめ:随喜の心で開く、温かく豊かな人生
「随喜」――他人の幸福を自分のことのように喜ぶこの心は、古くから仏教で説かれてきた智慧ですが、現代を生きる私たちにとって、ますます重要な価値観となっています。
他人の幸せを喜ぶことは、一見、相手のためだけのように思えますが、実は自分自身が最も恩恵を受けるのです。心が軽くなり、幸福感が増し、人間関係が豊かになり、人生の可能性が広がっていく――随喜には、そんな素晴らしい力があります。
私自身、60年以上の人生を振り返って思うのは、人の幸せを素直に喜べるようになってから、自分の人生も格段に豊かになったということです。嫉妬や比較で苦しんでいた時間が、いかに無駄だったか。もっと早く気づいていればと思うこともありますが、今からでも遅くはありません。
AI時代を迎え、テクノロジーは私たちの生活を大きく変えています。しかし、どんなに技術が進化しても、人間の心の温かさ、他者への思いやり、共に喜び合える心は、決して機械には真似できない人間の本質です。
もしあなたが今、誰かの幸せを素直に喜べないと感じているなら、それは決して恥ずかしいことではありません。人間として自然な感情です。しかし、その感情に気づき、少しずつ随喜の心を育てていくことで、あなたの人生は必ず変わります。
小さな一歩から始めてみませんか。今日、誰かの良いニュースを聞いたら、心から「おめでとう」と言ってみる。SNSで友人の投稿を見たら、素直に「いいね」を押してみる。そんな小さな実践が、やがて大きな喜びの輪となって、あなたの人生を照らしてくれるはずです。
随喜の心で生きる人生は、温かく、豊かで、そして何よりも幸せに満ちています。他人の幸せを喜ぶことで、自分自身も幸せになる――これこそが、人生における最も美しい真実なのです。

