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第5話「一歩一歩だよ」に学ぶ歩みの哲学

園児 2.名言・哲学・作品世界
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「一歩一歩だよ 一歩ずつ 歩くんだよ」——相田みつをのこの言葉は、焦りと不安に満ちた現代人に、深い安らぎを与える。大きな成果を一気に求め、遠い目標だけを見て疲弊する私たち。しかし相田は言う。目の前の一歩だけを見て、丁寧に歩けばいい、と。禅の「只管打坐(しかんたざ)——ただひたすら座る」の精神にも通じるこの思想は、結果ではなくプロセスを、目標ではなく今この瞬間を大切にする生き方を示している。「毎日毎日の足跡が おのずから人生の答えを出す きれいな足跡には きれいな水がたまる」——一歩一歩の積み重ねこそが、人生を作る。急がず、比較せず、ただ自分のペースで歩む。この「歩みの哲学」が、なぜ多くの人の心を支え続けるのか。その深層を探る。


「一歩」だけに集中する——禅の只管の精神

現代人は、常に先を見ている。将来の目標、来月の予定、明日のタスク。視線は常に遠くにあり、今この瞬間を疎かにしている。しかし相田みつをは言う。「一歩一歩だよ 一歩ずつ」——今、目の前にある一歩だけを見よ、と。

この思想は、禅の「只管打坐」に通じる。只管打坐とは、「ただひたすら座る」という意味である。悟りを得るためでもなく、何かを達成するためでもなく、ただ座る。目的を持たず、ただその行為そのものに集中する。これが禅の修行の核心である。相田が学んだ師・武井哲応も、この只管の精神を重視した。

「一歩一歩」も同じである。遠い目標のために歩くのではない。ただ、今この一歩を歩く。この一歩に全てを込める。この一歩そのものが目的なのだ。結果は後からついてくる。しかし、結果を求めて歩けば、足元が疎かになる。つまづき、転ぶ。だから、ただ一歩だけを見て歩く。

現代心理学でも、この「今に集中する」姿勢の重要性が指摘されている。マインドフルネスという概念は、まさに禅の「只管」の精神を現代化したものである。未来への不安、過去への後悔——これらから解放され、今この瞬間に集中することで、心は落ち着きを取り戻す。「一歩一歩」は、マインドフルネスの実践そのものなのである。


「毎日の足跡」が人生の答えを出す——プロセスの重視

相田みつをの別の作品に、こうある。「毎日毎日の足跡が おのずから人生の答えを出す きれいな足跡には きれいな水がたまる」。この言葉は、「一歩一歩」の思想をさらに深めている。毎日の歩み方が、人生を決める。どう歩くかが、どこへ着くかよりも重要なのだ。

現代社会は、結果主義である。どこに到達したか、何を達成したか——これが評価の基準となる。しかし相田は、プロセスを重視する。どう歩いたか。どんな足跡を残したか。丁寧に歩いたか、雑に歩いたか。正直に歩いたか、誤魔化しながら歩いたか。この歩み方こそが、人生の質を決める

「きれいな足跡には きれいな水がたまる」——この比喩は美しい。足跡は、単なる痕跡ではない。器となり、水を受ける。つまり、日々の行いが、後の恵みを決める。誠実に生きれば、誠実な恵みが返ってくる。いい加減に生きれば、いい加減な結果しか得られない。因果応報という仏教の教えと通じる。

また、この言葉には「おのずから」という表現がある。人生の答えは、自分で出すのではない。毎日の足跡が、おのずから答えを出す。つまり、無理に答えを求めなくていい。ただ丁寧に歩いていれば、答えは自然と現れる。この信頼が、焦りから人を解放する。目標に執着せず、プロセスに集中すれば、結果は後からついてくる。


「急がば回れ」——遠回りこそが近道

「一歩一歩だよ」という言葉には、「急がない」という姿勢が込められている。現代人は、常に急いでいる。早く成果を出したい、早く成功したい、早く変わりたい。この焦りが、人を疲弊させる。しかし相田は言う。急がなくていい。一歩ずつでいい

日本には「急がば回れ」という諺がある。急ぐなら、むしろ遠回りをした方が確実だ、という意味である。近道は一見早いが、危険も多い。つまづき、迷い、結局遠回りになる。一方、一歩ずつ確実に歩む道は、時間はかかるが確実である。そして、その過程で得るものが多い。遠回りこそが、本当の近道なのだ。

相田みつを自身の人生も、まさに「一歩一歩」だった。60歳まで無名だった。しかし、その間も書き続け、学び続けた。焦らず、腐らず、ただ自分の道を歩んだ。その結果、60歳で『にんげんだもの』が認められた。もし相田が焦って、近道を求めて、自分の道を曲げていたら、今の相田みつをはなかっただろう。遠回りに見えた道が、実は最短の道だったのである。

また、一歩ずつ歩くことで、周りの景色が見える。急いでいると、何も見えない。しかし、ゆっくり歩けば、道端の花に気づき、風の匂いを感じ、人との出会いに心を開ける。人生の豊かさは、速度ではなく、歩み方の質にある。


「比較しない」歩み——自分のペースで

「一歩一歩だよ」という言葉には、もう一つ重要なメッセージがある。それは、他人と比較しないということだ。一歩の大きさは、人それぞれ違う。足の長さも、体力も、状況も違う。だから、他人と同じペースで歩く必要はない。

現代社会は、比較社会である。SNSでは、他人の「成功」が目に入る。同期が昇進した、友人が結婚した、あの人は海外旅行に行っている。こうした情報が、焦りと劣等感を生む。「自分も早く」と思い、無理なペースで走り出す。しかし、無理は続かない。疲れ果て、つまづき、倒れる。

相田は言う。一歩ずつでいい。あなたの一歩は、あなたの一歩でいい。他人の一歩と比べる必要はない。大切なのは、自分が歩き続けることだ。止まらないことだ。たとえ遅くても、前に進んでいれば、必ず目的地に着く。

相田の別の作品に「トマトにねぇ いくら肥料をやったってさ メロンにはならねんだなあ」というものがある。この言葉も、比較の無意味さを教える。トマトは、メロンになる必要はない。トマトには、トマトの良さがある。同様に、あなたは他人になる必要はない。あなたには、あなたの歩み方がある


「今が大事」——未来ではなく現在に生きる

相田みつをの作品には、「人生において 最も大切な時それはいつでも いまです」という言葉もある。これは「一歩一歩」の思想と深く結びついている。今この瞬間の一歩こそが、最も大切なのだ。

現代人は、未来に生きている。「将来こうなりたい」「いつかこれをしたい」——常に未来を見ている。しかし、未来は不確実である。そして、未来ばかり見ていると、今を疎かにする。今を疎かにすれば、その積み重ねが、貧しい未来を作る。

相田は言う。今が大事。今この一歩が大事。過去は変えられない。未来は分からない。しかし、今は確かにある。この今を大切にすることが、豊かな未来を作る。一歩一歩、今この瞬間を丁寧に生きる。これが、相田の「今を生きる」哲学である。

禅では、「前後際断(ぜんごさいだん)」という言葉がある。前(過去)と後(未来)を断ち切り、今この瞬間に集中する、という意味である。過去への執着、未来への不安——これらを断ち切り、今を生きる。相田の「一歩一歩」は、まさにこの前後際断の実践である。

また、今を大切にすることは、人生の後悔を減らす。多くの人は、「あのときああしておけば」と過去を悔やむ。しかし、今を大切にして生きていれば、後悔は少ない。なぜなら、その時その時、精一杯生きたのだから。今この一歩を大切にすることが、後悔しない人生を作る


「動いてごらん」——止まらないことの大切さ

相田みつをの別の作品に「動いてごらん」というものがある。これも「一歩一歩」と関連している。一歩ずつでいい、遅くてもいい、しかし止まってはいけない。動き続けることが大切なのだ。

人は、失敗や挫折を経験すると、動けなくなる。「もうダメだ」「自分には無理だ」と思い、止まってしまう。しかし相田は言う。動いてごらん。一歩でもいいから、動いてごらん。動けば、何かが変わる。止まっていては、何も変わらない。

「動く」ことの重要性は、物理学でも説明できる。静止摩擦力と動摩擦力——止まっている物体を動かすには大きな力が必要だが、一度動き始めれば、小さな力で動き続けられる。人生も同じである。最初の一歩が一番重い。しかし、一度動き始めれば、勢いがつく。だから、まず動く。一歩だけでも動く

また、動くことで、新しい景色が見える。止まっていては、同じ景色しか見えない。しかし、一歩動けば、少し違う景色が見える。新しい発見がある。人との出会いがある。動くことが、可能性を開くのである。

相田自身も、60歳まで無名だったが、動き続けた。書き続け、学び続け、表現し続けた。止まらなかった。だからこそ、60歳で花開いた。もし途中で止まっていたら、今の相田みつをはなかった。「一歩一歩」は、「止まらない」ことの別の表現なのである。


一歩一歩が作る「道」——道は歩むことで生まれる

「一歩一歩だよ」という言葉の深い意味は、道は最初から存在しないということである。道は、歩くことで生まれる。一歩踏み出すことで、足跡ができる。その足跡が、道になる。

現代人は、「正しい道」を探す。どの道が成功につながるか、どの道が失敗しないか。しかし、そんな保証された道はない。相田は言う。ただ歩け。一歩ずつ歩け。その歩みが、あなたの道を作る。道は見つけるものではなく、作るものなのだ。

詩人アントニオ・マチャードは言った。「旅人よ、道はない。道は歩くことで生まれる」。この言葉は、相田の「一歩一歩」と完全に一致する。未来は不確実である。しかし、一歩ずつ歩めば、振り返ったとき、そこに道がある。その道が、あなたの人生である。

また、一歩一歩歩むことで、その道は自分だけの道になる。他人と同じ道を歩く必要はない。あなたの一歩が、あなたの道を作る。オリジナルな人生は、一歩一歩の積み重ねから生まれるのである。


今日から実践する「一歩一歩」の生き方

相田みつをの「一歩一歩だよ」は、単なる励ましではない。それは、実践可能な生き方の指針である。では、どう実践すればいいのか。

まず、大きな目標を一旦脇に置く。遠い将来ではなく、今日一日を見る。今日、何をするか。そして、その一つ一つを丁寧に行う。急がず、焦らず、ただ丁寧に。仕事も、家事も、人との会話も。全てが「一歩」である

次に、比較をやめる。他人の進度を気にしない。SNSを見る時間を減らす。自分のペースで歩く。遅くてもいい。自分の一歩を大切にする

そして、止まらない。たとえ小さな一歩でも、毎日歩く。休むことは必要だが、諦めない。動き続ける。この継続が、人生を変える。

最後に、今を大切にする。過去を悔やまず、未来を憂えず、今この瞬間に集中する。今できることを、今する。今の一歩が、未来を作る

「一歩一歩だよ 一歩ずつ 歩くんだよ」——この言葉を、毎朝思い出そう。今日も、一歩ずつ歩こう。きれいな足跡を残そう。そうすれば、人生の答えは、おのずから現れる。相田みつをが教えてくれた「歩みの哲学」を、今日から実践しよう。


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