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【中山美里】高齢者の性と生というタブーに踏み込んだルポライター

赤ちゃんと愛犬 老いと社会を問い続ける著者たち
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「高齢者にも性欲がある」──当たり前のことなのに、これほど語られにくいテーマもありません。中山美里(なかやま・みさと)氏は、社会が目を背けがちな高齢者の性や、女性の生き方、セックスワークの現場を徹底取材し、温かな視線で当事者の声を届けてきたルポライターです。2024年に刊行された『ルポ 高齢者のセックス』は、60~90代のシニアの性生活を60人以上の取材をもとに描き、超高齢社会を迎えた日本に大きな問いを投げかけました。

1977年生まれの中山氏は、自らの援助交際体験を綴った処女作『16歳だった』でデビューし、その後、性風俗業界で働く女性たちのリアルな姿を追い続けてきました。22歳でシングルマザーとなり、3児を育てながら執筆活動を続ける中で、「体を売る女をバカ扱いするな」という信条のもと、偏見や差別と闘ってきた人物です。2022年には一般社団法人siente(シエンテ)を設立し、セクシャルウェルネス産業への差別をなくす活動にも取り組んでいます。

中山氏の取材は、当事者への深い共感と敬意に満ちています。高齢者の性をタブー視せず、**QOL(生活の質)**向上のために必要な要素として捉える視点は、社会老齢学の観点からも注目に値します。人生100年時代を迎えた今、私たちは「老い」や「性」とどう向き合えばいいのか。中山氏の仕事は、その問いへの重要な手がかりを提供しているのです。


中山美里氏の基本情報

  • 氏名(ふりがな): 中山美里(なかやま・みさと)
  • 生年月日: 1977年生まれ
  • 学歴: 東京都内の私立高校卒業
  • 経歴: ショーダンサー、出版社アルバイトなどを経てフリーライターに。2016年よりJPG(AV業界団体)事務局員、2022年より一般社団法人siente代表理事
  • 現職: フリーライター・編集者、株式会社オフィスキング取締役、一般社団法人siente代表理事
  • 専門: ノンフィクション、性風俗、女性の生き方、高齢者の性
  • 紹介文: 自らの体験をもとにした処女作『16歳だった』で作家デビュー後、性風俗や女性の生き方をテーマに雑誌・WEBで取材・執筆を続ける。セックスワーカーへの偏見をなくす活動にも従事し、近年は高齢者の性と健康寿命の関係に着目した作品で注目を集めている。3児の母。

タブーに挑戦し続ける勇気

中山美里氏の仕事の核心は、「誰もが目を背けたくなるテーマに正面から向き合う」という姿勢にあります。高齢者の性というテーマは、まさにその典型です。日本社会では長らく、「高齢者に性欲があるはずがない」「あったとしても語るべきではない」という暗黙のタブーが存在してきました。しかし、日本家族計画協会の調査では、60代男性の7割以上が「セックスをしたい」と回答しています。この現実とタブー視の間にある大きなギャップを、中山氏は丁寧な取材で明らかにしました。

『ルポ 高齢者のセックス』では、「60歳未満お断り」という風俗店、88歳の現役AV女優、70歳以上の男性との交際を謳う「ジジ活」、80代でストリップ劇場を巡る男性など、多様な高齢者の性の実態が描かれています。中山氏が取材で大切にしているのは、決して当事者を嘲笑したり、センセーショナルに扱ったりしないこと。一人ひとりの人生に敬意を払い、なぜその選択をしたのか、どんな思いで生きているのかを丁寧に聞き取る姿勢が、作品全体に温かさを与えています。

また、中山氏は高齢者の性を単なる「性欲の問題」としてではなく、孤独の解消、生きがいの創出、心身の健康維持という側面から捉えています。異性と関わることで生活に張り合いができ、心身ともに若くいられると語る高齢者たち。その声は、超高齢社会における新しい老後観を示唆しています。タブーに挑戦する勇気の背景には、「すべての人が自分らしく生きる権利がある」という確信があるのです。


自らの体験を力に変える生き方

中山氏の執筆活動の原点には、自らの体験があります。16歳で援助交際をしていた過去を赤裸々に綴った処女作『16歳だった~私の援助交際記』は、多くの反響を呼びました。進学校に進みながらも進路へのプレッシャーや不安、トラウマなどが重なり、自傷的に援助交際をしていたという告白。この作品は、単なる暴露本ではなく、思春期の少女が抱える複雑な心理と社会の問題を浮き彫りにしたものでした。

22歳で未婚のまま出産し、10年間のシングルマザー生活を経験。学歴や資格のない女性が一家を支えられるだけの収入を得られる仕事として、性風俗業界に関心を持つようになりました。しかし、中山氏の視点は「被害者」や「弱者」としてではなく、「自分の意志で選択し、力強く生きる女性たち」の姿を捉えることでした。「体を売る女をバカ扱いするな」という信条は、自らの経験と、多くのセックスワーカーとの出会いから生まれたものです。

苦しい経験を隠すのではなく、それを力に変えて社会に問いかける。この姿勢は、レジリエンス(困難を乗り越える力)の象徴といえるでしょう。現在は3児の母として、ライターとして、社会活動家として、多様な役割を果たしています。自分の人生を肯定し、同じように生きる人々に寄り添う。そんな中山氏の生き方は、多くの女性に勇気を与えています。


セックスワークの偏見と闘う社会活動

中山氏は、執筆活動だけでなく、社会活動にも力を注いでいます。2016年のAV強要問題をきっかけに、AVプロダクション有志が立ち上げた業界団体JPG(日本プロダクション推進協議会)の事務局員として活動を開始。当初は葛藤もあったといいますが、「女優の環境を整えることにおいて、団体と関係を持つのはいいことだと思えた」という判断から協力を決意しました。

2022年にはAV新法(AV出演被害防止・救済法)の改正を呼びかける署名運動「女優・男優・スタッフが働きやすい『AV新法』にしてください」の共同発起人となり、業界の声を政策に反映させる活動を展開。同年11月には、一般社団法人siente(シエンテ)を設立し、代表理事に就任しました。sienteは、AVや風俗などセクシャルウェルネス産業に対する差別や偏見をなくすための活動を行っており、セクシャルウェルネスという新しい概念の普及にも取り組んでいます。

中山氏の活動の特徴は、当事者と共に歩むという姿勢です。外部から「救う」のではなく、当事者が自ら声を上げられる環境を作る。権利を守るための法整備を求めながらも、過度な規制が働く人々の生活を脅かすことがないよう、バランスを取る。こうした地道な活動は、性風俗業界で働く人々だけでなく、すべての人の人権と尊厳を守ることにつながっています。


ジェンダーと世代を超える視点

中山氏の作品に通底するのは、ジェンダーや世代を超えた人間理解です。『高齢者風俗嬢』では、74歳でAVに出演する女性、82歳のホームレス・デリヘル嬢、70代のナンバーワン・ソープ嬢など、「超熟」と呼ばれる女性たちが登場します。一方で、彼女たちを求める男性客の最高齢は80代。若い男性も超熟女を求めるといいます。需要と供給、それぞれの事情と願い。その交差点に、人間の複雑さと豊かさが現れます。

『副業愛人』では、年収300万円程度で囲える「愛人」たちの素顔を描きました。経済的な理由だけでなく、孤独の解消、自己肯定感の獲得、新しい人生経験など、多様な動機があることを明らかにしています。また、『ネット風俗嬢』では、インターネット時代の新しい性風俗の形を追いました。時代とともに変化する性のあり方を、常に最前線で追い続けているのです。

中山氏の視点は、単なる「ルポルタージュ」を超えて、社会老齢学における重要な問題提起となっています。高齢化が進む日本では、セックスワーカーの高齢化も進んでいます。彼女たちのセカンドライフをどう支えるか。引退後のキャリアをどう構築するか。これは、すべての働く人に共通する課題でもあります。中山氏の取材は、こうした世代間の対話を促し、社会全体で考えるべき問題を可視化しているのです。


この先に進む前に、ほんの一息


現代社会での応用と実践

中山氏の研究と実践は、現代の超高齢社会が直面する様々な課題に対して、具体的な示唆を与えています。まず、高齢者の性を健康とQOLの観点から捉え直すという視点です。山形大学医学部の研究では、異性への関心が低い中高年男性は早死にする傾向があることが明らかになっています。性的な関心や活動が、心身の健康維持につながる可能性を、中山氏の取材は裏付けています。

また、孤独・孤立対策としての視点も重要です。日本では高齢者の孤独死が社会問題となっていますが、中山氏が描く高齢者たちは、性的な関係を通じて他者とつながり、生きる活力を得ています。これは、従来の「地域コミュニティ」や「趣味の集まり」とは異なる、新しい社会参加の形といえるでしょう。すべての人に適用できるわけではありませんが、選択肢の一つとして認識されるべきです。

さらに、ダイバーシティ(多様性)の観点も見逃せません。高齢者といっても一様ではなく、それぞれ異なる価値観、ニーズ、生き方があります。中山氏の作品は、その多様性を丁寧に描き出すことで、「こうあるべき」という固定観念を解体しています。介護施設でのセクシャリティ支援、高齢者向けのフェムテック(女性の健康課題を解決する技術・サービス)の開発など、実践的な応用も広がりつつあります。

中山氏自身も、「高齢者の性生活を支えることは、尊厳ある老後を実現することにつながる」と語っています。タブーを解体し、科学的根拠に基づいて議論する。その先に、誰もが自分らしく年を重ねられる社会が見えてくるのです。


代表書籍5冊紹介

1. 『ルポ 高齢者のセックス』(扶桑社、2024年)

60~90代の高齢者60人以上に取材し、シニアの性生活の実態を描いた衝撃作。「60歳未満お断り」の風俗店、88歳のAV女優、ジジ活、高齢者専用派遣型風俗など、多様な事例を紹介しながら、高齢者の性がQOL向上に欠かせない要素であることを明らかにしています。タブーに挑む勇気と温かな眼差しが融合した、現代日本必読の一冊です。

2. 『高齢者風俗嬢』(洋泉社、2016年)

74歳でAV出演する女性、82歳のホームレス・デリヘル嬢、70代のナンバーワン・ソープ嬢など、「超熟」と呼ばれる女性たちの人生を描いたルポルタージュ。「女はいくつまで性を売れるのか」という問いを通じて、女性の尊厳、生きがい、経済的自立について考えさせられる作品。中山氏の代表作の一つです。

3. 『副業愛人 年収300万円で囲えるオンナの素顔28』(徳間書店、2019年)

年収300万円程度で囲える「愛人」たちへのインタビュー集。経済的理由だけでなく、孤独の解消、自己実現、新しい経験など、多様な動機を持つ女性たちの姿を描いています。現代の男女関係、経済格差、孤独社会の問題を浮き彫りにする、示唆に富んだ一冊です。

4. 『16歳だった 私の援助交際記』(幻冬舎文庫、2007年)

中山氏の処女作にして原点。自らの援助交際体験を赤裸々に綴り、ベストセラーとなった衝撃作。思春期の少女が抱える不安、トラウマ、自己破壊的な行動の背景を丁寧に描き、社会に大きな問いを投げかけました。当事者だからこそ書ける、リアルで切実な一冊です。

5. 『ネット風俗嬢』(リンダパブリッシャーズ、2011年)

インターネット時代の新しい性風俗の形を追ったルポルタージュ。チャットレディ、ライブチャット、出会い系サイトなど、ネット上で性的サービスを提供する女性たちの実態を取材。技術の進化と性産業の変化、働く女性たちの戦略と葛藤を描いた、時代を先取りした作品です。


まとめ

中山美里氏は、自らの体験をもとに、社会が目を背けがちなテーマに正面から向き合い続けてきたルポライターです。特に高齢者の性というタブーに切り込んだ『ルポ 高齢者のセックス』は、超高齢社会を迎えた日本に重要な問題提起をしました。「高齢者にも性欲がある」という当たり前の事実を、60人以上の丁寧な取材で可視化し、それが心身の健康やQOL向上につながることを明らかにしたのです。

中山氏の仕事の核心は、当事者への深い共感と敬意にあります。決して上から目線で「かわいそう」と憐れむのではなく、一人ひとりの選択を尊重し、その背景にある人生や思いを丁寧に聞き取る。この姿勢が、作品全体に温かさと説得力を与えています。また、一般社団法人sienteの代表理事として、セックスワーカーへの偏見をなくす社会活動にも取り組み、実践と理論の両面から課題解決に挑んでいます。


人生100年時代において、「老い」や「性」とどう向き合うか。中山氏の作品は、その問いへの一つの答えを示しています。タブーを解体し、多様性を認め合い、すべての人が自分らしく生きられる社会へ。

中山氏が切り開く道は、社会老齢学の新しい地平を照らしているのです。これからも、誰も語らないテーマに勇気を持って挑み、当事者の声を届け続けることでしょう。

その活動は、私たちすべてに「生きる」ことの意味を問いかけ続けています。


ここまで、時間を分けてくださり、ありがとうございます。
もし、まだ少しだけ余白が残っているなら。
もうひとつの視点を。


いづれかの言葉が、ゆっくり馴染みますように。
それぞれの一日を。


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