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【坂爪真吾】性と福祉の狭間で誰も見ない現実に光を当てる活動家

赤ちゃんと愛犬 社会老齢学の著者
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「性は生活の一部である」──この当たり前のことが、なぜ福祉の現場では語られにくいのか。坂爪真吾(さかつめ・しんご)氏は、障がい者の性、高齢者の性、性風俗で働く女性の支援という、社会が目を背けがちな3つのテーマに正面から取り組んできた活動家です。2008年に一般社団法人ホワイトハンズを設立し、重度身体障がい者への射精介助サービスを開始。2015年には風俗店で働く女性への無料相談事業「風テラス」を立ち上げ、のべ1万3,000人以上の相談に応じてきました。

1981年新潟生まれ、東京大学文学部で社会学者・上野千鶴子氏のゼミに所属し、風俗店のフィールドワークを行った経験が、現在の活動の原点となっています。「新しい性の公共を作る」という理念のもと、性をタブー視せず、一人ひとりの**QOL(生活の質)**向上に必要な要素として捉える視点は、社会老齢学の観点からも注目されています。特に2017年刊行の『セックスと超高齢社会』では、単身高齢者の性、介護現場での性的支援、高齢者向け性産業など、長寿社会が避けて通れないテーマを丁寧に論じました。

2024年には合同会社ヨルミナを設立し、夜職専用のAIパートナー「YOLUMINA」の開発にも着手。性風俗で働く人々の孤立を防ぎ、「明日の選択肢」を届ける新しい挑戦を始めています。坂爪氏の活動は、超高齢社会を迎えた日本が向き合うべき「性と尊厳」の問題に、具体的な解決策を示し続けているのです。


坂爪真吾氏の基本情報

  • 氏名(ふりがな): 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
  • 生年月日: 1981年10月21日
  • 学歴: 新潟県立新潟高等学校卒業、東京大学文学部卒業(上野千鶴子ゼミ所属)
  • 経歴: 2008年一般社団法人ホワイトハンズ設立・代表理事(2024年3月退任)、2015年「風テラス」活動開始、2022年NPO法人風テラス設立・理事長(2024年12月退任)、2024年合同会社ヨルミナ設立・代表
  • 現職: 合同会社ヨルミナ代表、NPO法人風テラス創業者
  • 専門: 社会福祉、性の公共、障がい者支援、性風俗労働者支援
  • 紹介文: 「新しい性の公共を作る」という理念のもと、障がい者の性、高齢者の性、性風俗で働く人々への支援に取り組む社会活動家。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。性的支援を福祉の一部として位置づける先駆的な活動で知られる。

「障がい者の性」という空白地帯への挑戦

坂爪真吾氏の活動の原点は、2008年に設立した一般社団法人ホワイトハンズです。重度身体障がい者に対する射精介助サービスという、日本ではほとんど前例のない取り組みでした。障がい者にも性的欲求があることは当然なのに、福祉現場ではタブー視され、家族にも相談できず、風俗店も利用できない。そんな「空白地帯」に、坂爪氏は果敢に挑みました。

東京大学在学中、上野千鶴子氏のゼミで風俗店のフィールドワークを経験したことが大きな転機でした。そこで目の当たりにしたのは、観念的な是非論や道徳論では何も解決しないという現実。性を「個人のモラルの問題」ではなく「社会の問題」として捉え直す必要があると確信したのです。この視点は、後の高齢者の性に関する研究にもつながっていきます。

ホワイトハンズの活動は、当初は大きな批判にもさらされました。しかし、坂爪氏は「性は生活の一部であり、健康で文化的な最低限度の生活には性的欲求の充足も含まれるべきだ」という信念を曲げませんでした。実際、サービスを利用した障がい者の中には、性的欲求が満たされることで生活全体に張り合いが生まれ、社会参加への意欲が高まったという声も多く聞かれました。この経験が、性をセルフケアの一環として捉える視点を育んだのです。


超高齢社会における「老後の性」の現実

坂爪氏が高齢者の性に本格的に取り組んだのは、2017年刊行の『セックスと超高齢社会』がきっかけです。単身高齢者約600万人のうち、初婚・再婚するのはわずか0.001%。また配偶者がいても、75歳になれば男性の2割、女性の6割は離別・死別を経験します。残された人生で、自らの「性」とどう向き合えばいいのか──この切実な問いに、坂爪氏は真摯に向き合いました。

本書では、シニア婚活の実態、介護現場での性的支援、高齢者向け性産業など、多角的に「老後の性」を検証しています。特に注目されたのは、「死ぬまでセックス」という幻想を解体し、現実的な選択肢を提示した点です。すべての高齢者が性的に活発である必要はないが、希望する人には適切な選択肢が用意されるべき。この包摂的な視点が、多くの読者に支持されました。

また、介護現場での性的支援についても詳しく論じています。認知症の高齢者が性的な言動をする場合、それを「問題行動」として抑圧するのではなく、背景にある欲求や孤独感に寄り添う。フランス発祥のケア技法「ユマニチュード」にも言及しながら、QOLを守るための性的支援のあり方を提案しています。これは、人生100年時代を迎えた日本の介護現場に、重要な示唆を与えるものでした。


風俗店で働く女性への「アウトリーチ支援」

坂爪氏のもう一つの大きな活動が、風俗店で働く女性への支援事業「風テラス」です。2015年、激安風俗店を取材で訪れた際、多重債務、生活困窮、精神疾患、軽度知的障がいなど、法的・福祉的支援が必要な女性たちと出会いました。彼女たちは誰にも、どこにもつながれないまま、リスクを抱えて働き続けていたのです。

坂爪氏が始めたのは、風俗店の待機部屋に弁護士とソーシャルワーカーがチームで訪問し、無料で生活・法律相談に乗る「アウトリーチ支援」でした。「相談をするにも”力”が必要だ」という気づきがあったからです。役所の窓口に行くこと、電話をかけること、自分の状況を説明することすら、困難な状態の人々がいる。だから、支援者側から現場に出向く必要があったのです。

風テラスの活動は、コロナ禍で相談が激増し、2022年にNPO法人として独立しました。のべ1万3,000人以上の相談に応じ、福祉施設や行政機関とのネットワークを構築。点ではなく面として相談者を支援する体制を整えてきました。2024年12月、坂爪氏は理事長を退任し、次のステージへ進みましたが、風テラスの活動は後継者に引き継がれ、発展を続けています。坂爪氏の「性風俗を自己責任で片付けず、社会の問題として支援する」という姿勢は、社会的包摂の重要なモデルとなっています。


「新しい性の公共」という思想

坂爪氏の活動を貫く思想が「新しい性の公共を作る」という理念です。性は極めて私的な領域だと考えられがちですが、同時に社会的・公共的な側面も持っています。障がい者が性的サービスを利用できないのは社会の問題であり、高齢者が孤独の中で性的欲求を抱えるのも社会の問題、性風俗で働く女性が福祉につながれないのも社会の問題──こうした視点の転換が、坂爪氏の活動の核心です。

「性の公共」とは、性にまつわる課題を個人のモラルや自己責任に還元せず、社会全体で解決すべき課題として捉えることを意味します。これは、公衆衛生セクシャルウェルネスの考え方とも通じます。性的健康が守られること、性的な尊厳が保たれることは、すべての人の基本的権利であり、社会がそのための環境を整備する責任がある。この思想は、超高齢社会を迎えた日本において、ますます重要性を増しています。

また、坂爪氏は性風俗産業に対する偏見との闘いにも取り組んできました。『はじめての不倫学』『パパ活の社会学』など、社会的にタブー視されるテーマを「社会課題」として論じる著作も多数執筆。性を巡る問題を、道徳的な善悪の二元論ではなく、社会構造や経済格差、孤独、精神的健康など、多面的な視点から捉え直す姿勢が一貫しています。この柔軟な思考と寛容さが、多くの支持を集める理由といえるでしょう。


この先に進む前に、ほんの一息


現代社会での応用と実践

坂爪氏の研究と実践は、現代日本が直面する様々な課題への具体的な解決策を示しています。まず、介護現場での性的支援の必要性です。厚生労働省の調査でも、介護職員の約6割が入所者からの性的な言動やセクハラを経験しています。これを「問題行動」として抑圧するのではなく、背景にある欲求や孤独感に寄り添うアプローチが求められています。

坂爪氏が提唱する「老後の性をデザインする」という考え方も重要です。人生100年時代において、配偶者との死別後の期間は20年以上に及ぶこともあります。その期間をどう生きるか。再婚、パートナーシップ、性的サービスの利用、一人で過ごす選択──多様な選択肢があることを社会が認め、それぞれの選択を尊重する。このダイバーシティの視点が、誰もが自分らしく老いる社会の実現につながります。

また、2024年に立ち上げた合同会社ヨルミナでの新事業も注目されます。夜職専用のAIパートナー「YOLUMINA」は、性風俗で働く人々が孤立せず、法律や福祉の情報にアクセスし、「明日の選択肢」を見つけられるようサポートするツールです。AI技術を活用した支援は、24時間対応可能で、匿名性も保たれるため、相談のハードルを下げる効果が期待されています。これは、テクノロジーと福祉を融合させた先駆的な取り組みといえるでしょう。

さらに、坂爪氏の活動は貧困対策の観点からも重要です。性風俗で働く女性の中には、シングルマザーや生活困窮者が多く含まれています。彼女たちを道徳的に批判するのではなく、なぜそこで働かざるを得なかったのか、どんな支援があれば別の選択ができるのかを考える。この視点は、子どもの貧困、女性の経済的自立、社会保障制度の在り方など、幅広い社会課題とつながっています。


代表書籍5冊紹介

1. 『セックスと超高齢社会 「老後の性」と向き合う』(NHK出版新書、2017年)

長寿社会における性の問題に正面から取り組んだ画期的な一冊。単身高齢者の現実、シニア婚活、介護現場での性的支援、高齢者向け性産業など、多角的に「老後の性」を検証しています。「死ぬまでセックス」という幻想を解体し、現実的な選択肢を提示。超高齢社会を生きるすべての人に読んでほしい必読書です。

2. 『セックスと障害者』(イースト新書、2016年)

障がい者の性という、日本社会が長らくタブー視してきたテーマに挑んだ代表作。重度身体障がい者への射精介助サービスの実践を通じて見えてきた、性と尊厳の問題を丁寧に論じています。性を福祉の一部として位置づける先駆的な視点が示されており、福祉関係者だけでなく、広く一般読者にも読まれるべき一冊です。

3. 『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』(集英社新書、2019年)

地方都市の性風俗で働くシングルマザーたちの実態を追ったルポルタージュ。子どもを育てるために風俗で働かざるを得ない女性たちの背景には、経済格差、社会保障の不備、地域の貧困がありました。性風俗を個人の問題ではなく、社会構造の問題として捉え直す重要な一冊です。

4. 『風俗嬢のその後』(ちくま新書、2024年)

風俗で働いた経験を持つ女性たちの「その後」を追った最新作。風俗を辞めた後、彼女たちはどう生きているのか。結婚、就職、起業、生活保護──多様な人生の軌跡を丁寧に描き出しています。風テラスでの10年間の相談活動から見えてきた、女性たちの生きる力と社会の課題が詰まった一冊です。

5. 『孤独とセックス』(扶桑社新書、2018年)

現代社会における孤独と性の関係を多角的に論じた意欲作。高齢者の孤独、障がい者の孤立、性風俗で働く女性の孤独──様々な「孤独」の形を取り上げながら、人間にとって性的なつながりが持つ意味を考察しています。人生100年時代における孤独対策としても、示唆に富んだ内容です。


まとめ

坂爪真吾氏は、「性」という極めてプライベートなテーマを「社会の公共的課題」として捉え直し、具体的な支援活動を展開してきた社会活動家です。障がい者の性、高齢者の性、性風俗で働く人々への支援──いずれも社会が目を背けがちなテーマですが、坂爪氏は一貫して「新しい性の公共を作る」という理念のもと、タブーに挑み続けてきました。

特に超高齢社会における「老後の性」の問題は、これから多くの人が直面する切実な課題です。配偶者との死別、介護施設での生活、性的欲求の変化──こうした現実に対して、坂爪氏は道徳的な説教ではなく、科学的データと現場での実践に基づいた、実効性のある提言を示してきました。「すべての人が自分らしく老いる」ためには、性を含めた包括的なQOL向上の視点が不可欠なのです。


2024年、坂爪氏はホワイトハンズと風テラスの代表を退任し、新たにAI技術を活用した支援事業に挑戦を始めました。16年にわたる活動で培った知見を、次のステージで活かしていく。

その姿勢は、社会課題の解決に終わりはなく、常に進化し続けるべきだということを教えてくれます。

坂爪氏が切り拓いてきた「性の公共」という思想は、これからの日本社会において、ますます重要性を増していくことでしょう。


ここまで、時間を分けてくださり、ありがとうございます。
もし、まだ少しだけ余白が残っているなら。
もうひとつの視点を。


いづれかの言葉が、ゆっくり馴染みますように。
それぞれの一日を。


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