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「齋藤孝」呼吸と声で身体を取り戻す教育者

赤ちゃんと子犬 身体実践学の著者
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「声に出して読みたい日本語」という言葉を生み出し、260万部を超える大ベストセラーで日本語ブームを巻き起こした教育者、齋藤孝。明治大学教授として教育学・身体論・コミュニケーション論を教えながら、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」の総合指導を務める彼が一貫して説くのは、身体感覚の回復です。呼吸法、音読、暗誦、雑談力。一見バラバラに見えるこれらのテーマは、すべて「身体を通じて人間力を高める」という一本の糸で貫かれています。著書発行部数は1000万部を超え、文化人としてテレビでも活躍する齋藤ですが、その原点にあるのは、40年以上にわたる呼吸研究という地道な実践でした。身体と心と言葉が一体となったとき、人間は本来の力を発揮できる。その信念を、現代人に届け続ける齋藤孝の世界を探ります。


著者の基本情報

齋藤孝(さいとう・たかし)

  • 生年:1960年(昭和35年)9月17日
  • 出身地:静岡県
  • 学歴:東京大学法学部卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了
  • 現職:明治大学文学部教授
  • 専門:教育学、身体論、コミュニケーション論
  • 主な受賞:新潮学芸賞(『身体感覚を取り戻す』)、毎日出版文化賞特別賞(『声に出して読みたい日本語』)、2002年新語・流行語大賞ベスト10
  • メディア:NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導、TBS「情報7daysニュースキャスター」コメンテーター
  • 著書:1000万部を超える

齋藤孝は静岡県に生まれ、東京大学法学部を卒業後、教育学の道へ。学生時代から呼吸に深い関心を持ち、大学院では研究テーマとして取り組みました。卒業後も呼吸の専門家に師事し、40年にわたり修練と研究を積み重ねています。明治大学教授として教壇に立ちながら、一般向けの著作活動も精力的に行い、教育、日本語、コミュニケーション、古典など幅広いテーマで執筆。特に『声に出して読みたい日本語』は社会現象となり、暗誦・音読ブームを生み出しました。


呼吸法という土台 すべての根っこにある身体実践

齋藤孝の思想と実践の根底にあるのが呼吸法です。学生時代から40年以上、呼吸を研究し続けてきた齋藤にとって、呼吸はすべての活動の土台です。教育論も、コミュニケーション論も、身体論も、その根っこには呼吸があると彼は言います。

齋藤式呼吸法の基本は「3秒吸う、2秒止める、15秒以上かけて細く長く吐く」というシンプルなものです。しかしこの呼吸を続けると、驚くべき変化が起こります。集中力が高まり、記憶力が良くなり、感情のコントロールができるようになる。緊張がほぐれ、自律神経が整い、心が落ち着く。それは神秘体験ではなく、当たり前の生理現象だと齋藤は説明します。

現代人は呼吸が浅くなっています。パソコンやスマートフォンを見続け、前かがみの姿勢で過ごす時間が長い。マスク着用の習慣も、呼吸を浅くする要因です。呼吸が浅くなると、酸素が十分に脳に届かず、集中力が散漫になり、疲れやすくなります。

私自身、齋藤の呼吸法を実践してみて驚きました。最初は15秒も息を吐き続けることができませんでしたが、練習するうちに20秒、30秒と伸びていきました。そして確かに、呼吸を整えると心が落ち着くのです。会議の前、プレゼンの前、緊張する場面で2〜3分この呼吸法を行うと、心が安定し、前向きな気持ちで臨めるようになりました。

呼吸は無意識の活動ですが、意識的にコントロールできる唯一の自律神経系の機能です。だからこそ、呼吸を整えることで、心身のバランス全体を整えることができる。齋藤の呼吸法は、誰でもすぐに実践できる、最も基本的で強力な身体技法なのです。


声に出す力 音読と暗誦がもたらすもの

2001年に出版された『声に出して読みたい日本語』は、齋藤孝の名を一躍有名にしました。「祇園精舎の鐘の声」から「ガマの油売り」まで、声に出すと心地よい日本語の名文・名句を集めたこの本は、シリーズ累計260万部を超える大ベストセラーとなりました。

なぜ声に出すことが大切なのか。齋藤は、暗誦は「日本語の宝石を身体に埋め込む」行為だと言います。意味が完全に理解できなくても、声に出して繰り返すことで、リズムや響きが身体に染み込んでいく。それは潜在的な日本語の力を育てることになるのです。

音読には多くの効果があります。まず、脳が活性化します。目で見て、声に出し、耳で聞く。この三重の刺激が脳を鍛えます。特に「速音読」は、脳のバージョンアップに効果的だと齋藤は主張します。早口言葉のように速く読むことで、脳の処理速度が上がるのです。

また、音読は誤嚥性肺炎の予防にもなります。声を出すことで喉の筋肉が鍛えられ、飲み込む力が維持されます。高齢者にとって、音読は健康維持の重要な習慣なのです。

さらに、音読はコミュニケーション力の基礎にもなります。声に出すことで、言葉に身体性が宿ります。文字を目で追うだけでは、言葉は頭の中だけの存在です。しかし声に出すと、言葉は呼吸と結びつき、身体全体の活動になる。この身体を通した言葉の実践が、コミュニケーション力を支えるのです。

私の祖母は80代ですが、毎朝新聞の社説を音読しています。「頭がはっきりするのよ」と笑顔で言います。齋藤の本を読んで、祖母の習慣の素晴らしさを再認識しました。音読は、年齢を問わず誰でもできる最高の脳トレーニングなのです。


コミュニケーション力という技 身体で学ぶ対話術

齋藤孝が繰り返し説くもう一つのテーマがコミュニケーション力です。『コミュニケーション力』『雑談力が上がる話し方』『質問力』など、コミュニケーションに関する著作は多数あります。しかしそれは単なる会話術ではなく、身体論に基づいた実践的な技なのです。

齋藤は、コミュニケーションを「技」として捉えます。才能ではなく、練習によって身につけられるスキル。野球のバッティングやピアノの演奏と同じように、反復練習によって上達する。この考え方が、コミュニケーションが苦手な人々に希望を与えました。

コミュニケーション力の基本は「身体の同期」です。相手の呼吸に合わせる、相槌のタイミングを図る、視線を適度に合わせる。これらは無意識のレベルで行われますが、意識的に練習することで上達します。齋藤は、こうした身体レベルの同期が、心の通い合いを生むと説きます。

また、「雑談力」も齋藤の重要なテーマです。仕事の成果だけでなく、日常の何気ない会話が、人間関係を豊かにします。雑談は情報のやりとりではなく、感情のやりとりです。「最近どう?」「天気いいね」。内容は些細でも、そこに相手への関心と温かさがあれば、関係は深まります。

私は以前、沈黙が怖くて無理に話題を探していました。しかし齋藤の本を読んで、コミュニケーションは「技」だと知り、少し楽になりました。完璧である必要はない。相手に関心を持ち、呼吸を合わせ、笑顔で接する。その基本を意識するだけで、会話がずっとスムーズになったのです。


身体感覚を取り戻す 現代人への警鐘

齋藤孝が2000年に著した『身体感覚を取り戻す』は、新潮学芸賞を受賞した学術的な代表作です。この本で齋藤が問いかけるのは、現代人は身体感覚を失っているのではないかという根本的な問いです。

身体感覚とは、自分の身体の状態を感じ取る力です。疲れている、緊張している、リラックスしている。こうした微細な身体の声を聞き取る感受性。しかし現代人は、頭で考えることに偏りすぎて、身体の声を無視しがちです。

齋藤は、宮沢賢治、夏目漱石、三島由紀夫といった文豪たちの身体性を分析します。彼らは皆、身体感覚を研ぎ澄ませ、それを創作の源泉としていました。宮沢賢治の詩の躍動感、夏目漱石の文体のリズム、三島由紀夫の肉体美への執着。それらはすべて、鋭敏な身体感覚から生まれたものです。

では、どうすれば身体感覚を取り戻せるのか。齋藤が提示するのは、呼吸、音読、そして「腰・肚(はら)文化」です。日本の伝統的な身体文化では、腰や肚が重視されてきました。武道、茶道、能楽。すべて腰を据え、肚に力を入れることが基本です。この下半身重心の身体感覚を取り戻すことが、心身の安定につながると齋藤は説きます。

私たちは一日のほとんどを椅子に座って過ごします。そのとき、意識は頭に集中し、下半身は忘れられています。しかし時々、肚に手を当て、呼吸を意識し、「今、ここ」に身体を戻す。その習慣が、身体感覚を取り戻す第一歩になるのです。


古典の力と語彙力 教養としての日本語

齋藤孝のもう一つの大きなテーマが、古典と語彙です。『読書力』『古典力』『語彙力こそが教養である』など、日本語の力を高めることへの情熱は並外れています。

齋藤は、古典を読むことを強く勧めます。夏目漱石、森鷗外、福沢諭吉の『学問のすすめ』、ゲーテ。これらの古典には、時代を超えた智慧が詰まっています。そして古典を読むことで、深い語彙力が身につきます。語彙力は単なる言葉の知識ではなく、思考の幅を決めるものです。豊かな語彙を持つ人は、微細な感情や複雑な思考を表現できます。

『大人の語彙力ノート』『大人の語彙力大全』といった著作は、ビジネスパーソンを中心に大きな支持を得ました。「お疲れ様です」を「お世話になっております」に言い換える。「すみません」を状況に応じて「恐れ入ります」「申し訳ございません」と使い分ける。こうした語彙の選択が、品格と教養を示すのです。

また、齋藤は福沢諭吉の『学問のすすめ』を現代語訳し、広く読まれる本にしました。古典を現代に蘇らせる翻訳者としての役割も果たしています。古典は難しいものではなく、現代を生きる私たちにこそ必要な智慧の宝庫だと齋藤は訴えます。

私も齋藤の本に影響されて、夏目漱石の『こころ』を読み返しました。学生時代に読んだときとは全く違う味わいがありました。人生経験を積んだ今だからこそ、登場人物の葛藤が身に染みる。古典は何度読んでも新しい発見がある。そのことを実感しました。


現代社会での応用と実践 齋藤メソッドを日常に

齋藤孝の思想と実践を、私たちはどう日常生活に取り入れられるでしょうか。第一に、毎日2分の呼吸法です。朝起きたとき、寝る前、仕事の合間に。「3秒吸って、2秒止めて、15秒かけて吐く」。この呼吸を5回繰り返すだけで、心身が整います。

第二に、音読の習慣を持つことです。新聞の社説でも、好きな詩でも、子どもの絵本でも構いません。声に出して読む時間を毎日5分でも確保する。それが脳の活性化、コミュニケーション力の向上、健康維持につながります。

第三に、語彙を増やす意識を持つことです。知らない言葉に出会ったら調べる。同じ意味でも違う表現を探す。言い換えのバリエーションを増やす。語彙力は一朝一夕には身につきませんが、意識し続けることで必ず豊かになります。

第四に、古典を少しずつ読むことです。一気に読む必要はありません。『学問のすすめ』の一章を読む、漱石の短編を読む。そうした積み重ねが、教養の土台を作ります。齋藤の現代語訳や解説本を使えば、古典も身近になります。

第五に、身体感覚に意識を向けることです。疲れたら休む。深呼吸する。肚に力を入れて立つ。こうした小さな実践が、身体と心のバランスを保ちます。

私は齋藤の本に出会ってから、朝の呼吸法と夜の音読を習慣にしました。たった10分の実践ですが、一日の質が明らかに変わりました。集中力が増し、ストレスが減り、言葉がスムーズに出るようになったのです。齋藤メソッドは、誰でもすぐに始められ、確実に効果を実感できる実践法なのです。


代表書籍5冊紹介

1. 『声に出して読みたい日本語』(草思社、2001年)

累計260万部を超える大ベストセラー。「祇園精舎の鐘の声」「寿限無」「ガマの油売り」など、声に出すと心地よい日本語の名文・名句を集めた画期的な一冊。暗誦文化を復活させ、日本語ブームを巻き起こしました。子どもから大人まで楽しめる内容で、音読の素晴らしさを再発見させてくれます。毎日出版文化賞特別賞、新語・流行語大賞ベスト10受賞。

2. 『身体感覚を取り戻す』(NHK出版、2000年)

新潮学芸賞を受賞した学術的代表作。現代人が失った身体感覚をいかに取り戻すか、宮沢賢治や夏目漱石などの文豪の身体性を分析しながら論じます。呼吸、腰肚文化、身体技法など、齋藤の身体論の基盤がここにあります。やや専門的ですが、身体と心の関係を深く理解したい方には必読の一冊。

3. 『呼吸入門』(角川文庫、2003年)

40年の呼吸研究の集大成。3秒吸って2秒止めて15秒かけて吐く「齋藤式呼吸法」の理論と実践が詳しく説明されています。集中力、記憶力、感情コントロール、健康増進など、呼吸がもたらす多様な効果を実感できる内容。日常生活ですぐに実践でき、効果を体感できる実用書として高く評価されています。

4. 『コミュニケーション力』(岩波新書、2004年)

コミュニケーションを「技」として捉え、練習によって上達できることを示した画期的な一冊。身体の同期、呼吸の合わせ方、雑談の技術など、実践的なコミュニケーション術が満載。会話に苦手意識を持つ人に勇気を与え、ビジネスパーソンや教育関係者に広く読まれています。授業でもすぐ使える内容が好評です。

5. 『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ、2017年)

語彙力を高めるための実践的ガイド。「すみません」を状況に応じて使い分ける、「お疲れ様です」の代わりの表現を知るなど、すぐに使える語彙のバリエーションが豊富に紹介されています。語彙力は教養であり、思考力であり、コミュニケーション力の基盤。ビジネスシーンで品格ある言葉遣いを身につけたい人の必携書です。


まとめ 身体と言葉を一体化する実践

齋藤孝は、現代日本において最も影響力のある教育者の一人です。1000万部を超える著書、テレビでの活躍、「にほんごであそぼ」の総合指導。その活動は多岐にわたりますが、一貫しているのは身体感覚の回復というテーマです。

呼吸法、音読、暗誦、コミュニケーション、語彙力。一見バラバラなこれらのテーマは、すべて「身体を通じて人間力を高める」という一本の軸でつながっています。頭だけで考えるのではなく、身体で感じ、声に出し、呼吸と一体化する。そのときに初めて、言葉は本当の力を持つのです。

現代社会は、身体を置き去りにしています。デジタル化が進み、私たちの意識はスマートフォンの画面に吸い込まれ、身体は固まったまま動きません。そんな時代だからこそ、齋藤の説く身体実践の智慧が必要なのです。

齋藤メソッドの素晴らしさは、誰でもすぐに実践できることです。特別な道具も場所も要りません。呼吸を整え、声を出し、言葉を大切にする。その日々の小さな実践が、心身のバランスを整え、コミュニケーション力を高め、人生を豊かにしてくれます。

40年以上、呼吸と身体と言葉を探求し続けてきた齋藤孝。その蓄積された智慧は、私たちが「今、ここ」に生きるための実践的な道標となっています。身体を取り戻し、言葉の力を味わい、人とつながる喜びを感じる。齋藤の教えは、そのための確かな方法を示してくれているのです。

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