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「矢野龍彦」ナンバ歩きで身体を解放する実践者

赤ちゃんと子犬 身体実践学の著者
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「捻じらない、うねらない、踏ん張らない」。この三つの否定形で表現される身体操法を、現代に蘇らせた実践者、矢野龍彦。桐朋学園大学で50年以上教鞭をとりながら、江戸時代の日本人が一日40キロも歩いていたというナンバ歩きの研究と普及に人生を捧げてきました。西洋式の歩き方やスポーツ理論が当たり前とされる現代において、矢野が提唱するナンバ術は、日本人の身体に本来備わっていた合理的な動きを取り戻す試みです。音楽大学で演奏家たちの身体指導を行いながら、バスケットボール部のコーチとしても活躍。ナンバ術協会最高師範として、アスリートから高齢者まで、幅広い層に「身体と対話する」ことの大切さを伝え続けています。痛みは身体からのメッセージ。頑張り感を消していく。骨で動く。矢野の教えは、私たちが忘れていた身体の智慧を、優しく思い出させてくれるのです。


著者の基本情報

矢野龍彦(やの・たつひこ)

  • 生年:1952年
  • 出身地:高知県
  • 学歴:筑波大学体育学修士課程コーチ学専攻修了
  • 現職:桐朋学園大学教授(50年以上在職)、杏林大学バスケットボール部コーチ
  • 資格:陸上競技上級コーチ
  • 役職:ナンバ術協会最高師範
  • 専門:メンタルトレーニング、身心コントロール、シェイプアップ、コーチング、健康教育
  • 主な著書:『すごい!ナンバ歩き』『すごい!ナンバ術』『ナンバ式!元気生活 疲れをしらない生活術』『「ナンバ走り」を体得するためのトレーニング スポーツ新基本』ほか多数
  • DVD:『本当のナンバ歩き』(BABジャパン)

矢野龍彦は高知県に生まれ、筑波大学でコーチ学を学びました。桐朋学園大学では音楽を専攻する学生たちに、身体の使い方を指導してきました。楽器演奏には高度な身体技法が必要です。矢野は、ナンバの身体操法が音楽家の演奏能力を劇的に向上させることを発見し、50年以上にわたり実践研究を続けています。


ナンバ歩きとは何か 江戸の身体操法を現代に

ナンバ歩きとは、右手と右足、左手と左足を同時に出す歩き方です。現代の歩き方(右手と左足を同時に出す)とは逆の動きです。「そんな歩き方、できるの?」と思われるかもしれませんが、実は赤ちゃんはナンバで歩き始めます。また、忍者や飛脚、武士たちもナンバで移動していたと言われています。

矢野がナンバに着目したのは、江戸時代の日本人の驚異的な移動能力からでした。当時の人々は一日40キロ以上歩くことも珍しくありませんでした。東海道五十三次を数日で踏破する飛脚もいました。これは現代人には想像もつかない距離です。その秘密が、身体を捻じらないナンバの動きにあったのです。

ナンバの本質は「平行四辺形システム」にあります。胸郭と骨盤を連動させ、身体を捻じらずに動く。この動きは、西洋式の「気をつけ」の姿勢や、腰を捻る歩き方とは根本的に異なります。西洋式の動きは、身体に無理な負担をかけ、疲労を蓄積させます。一方、ナンバは最小限のエネルギーで最大の効果を生む、超合理的な身体操法なのです。

私自身、初めてナンバ歩きを試したとき、不思議な感覚がありました。最初はぎこちないのですが、慣れてくると身体が軽くなり、疲れにくくなるのです。長時間歩いても膝や腰が痛くならない。この体験は衝撃的でした。「身体の使い方一つで、こんなに変わるのか」と。


身体と対話する哲学 痛みをコーチにする

矢野龍彦の身体論で最も重要な概念が**「身体との対話」**です。現代人は、身体を道具のように扱い、無理をさせ、痛みを我慢します。しかし矢野は言います。「身体や心が、痛いとか苦しいというのは、動きを変えてくれという叫び声を上げている」と。

痛みは敵ではなく、身体からのメッセージです。痛みが出たら、一度立ち止まり、動きを確認する。そして、どうすれば痛みが出ない動きができるかを探る。この対話的なアプローチが、ナンバ術の核心です。マニュアル通りに動くのではなく、自分の身体に聞きながら、自分にとって最適な動きを見つけていく。

また、矢野は「頑張り感を消していく」ことを強調します。スポーツでも日常生活でも、私たちは「頑張る」ことを美徳としがちです。しかし、頑張れば頑張るほど、身体は硬くなり、動きは鈍くなります。ナンバでは、力を抜き、骨で動くことを目指します。骨意識で動かすとは、筋肉に頼らず、骨格の構造を活かして動くということです。

さらに、矢野は「感性を磨く」ことの大切さを説きます。人間観察、自然観察を通じて、動きの本質を学ぶ。猫の歩き方、鳥の飛び方、風に揺れる木々。自然界には無駄のない動きの手本があふれています。感性を開き、観察し、自分の身体で試してみる。この探求的な姿勢が、ナンバを深める道なのです。

私は矢野の「痛みをコーチにする」という言葉に救われました。長年、膝の痛みに悩んでいたのですが、それを無視して運動を続けていました。しかし矢野の考え方を知ってから、痛みが出る動きを避け、別の動き方を探すようになりました。すると不思議なことに、痛みが減っていったのです。身体は、正しい動き方を教えてくれていたのです。


音楽家の身体指導 演奏と身体の深い関係

矢野龍彦が50年以上教鞭をとる桐朋学園大学は、音楽大学です。ピアニスト、ヴァイオリニスト、チェリスト。世界的な演奏家を輩出してきた名門校で、矢野は身体の使い方を教えてきました。なぜ音楽大学に身体指導が必要なのでしょうか。

楽器演奏は、高度な身体技法です。ピアノなら指の動き、ヴァイオリンなら弓の操作、管楽器なら呼吸のコントロール。これらすべてに、身体の使い方が関わります。そして多くの音楽家が、腱鞘炎や腰痛、肩こりといった身体の不調に悩まされています。無理な姿勢で長時間練習することで、身体を痛めてしまうのです。

矢野のナンバ術は、音楽家たちに劇的な変化をもたらしました。特に印象的なのが、全盲のヴァイオリニストとのエピソードです。目が見えないことで、通常の身体指導が難しかった学生に、ナンバの考え方を導入したところ、わずか3ヶ月で階段を一人で駆け上がれるようになり、演奏技術も飛躍的に向上しました。

身体の使い方が変われば、演奏が変わる。力みを抜き、骨で動くことで、指は自由に動き、音色が豊かになります。呼吸が深くなれば、フレーズが伸びやかになります。矢野の指導は、音楽家たちに「身体と楽器が一体になる」体験をもたらしているのです。

これは音楽家だけの話ではありません。デスクワーク、家事、介護、あらゆる日常動作に応用できます。無理のない動き方を身につければ、疲れにくく、痛みも減り、生活の質が向上します。矢野の教えは、すべての人のための身体智慧なのです。


スポーツへの応用 バスケットボール指導の実践

矢野龍彦は、杏林大学バスケットボール部のコーチも務めています。また、陸上競技上級コーチの資格を持ち、「ナンバ走り」の提唱者でもあります。ナンバの動きは、スポーツのパフォーマンスを劇的に向上させるのです。

バスケットボールでは、素早い方向転換、ジャンプ、シュートといった複雑な動きが要求されます。従来の西洋式トレーニングでは、筋力を鍛え、反復練習で技術を磨きます。しかし矢野のアプローチは違います。身体の使い方を変えることで、筋力に頼らず、効率的に動くことを目指すのです。

「ナンバ走り」も同様です。陸上競技の短距離走で、通常は腕を大きく振り、足を蹴り出します。しかし矢野は、捻じらず、踏ん張らず、骨盤と胸郭を連動させる走り方を提唱します。この走り方は、一見非常識に見えますが、実践すると驚くほど楽に、速く走れるようになります。

興味深いのは、世界的なスプリンター、ウサイン・ボルトの走りにもナンバの要素があることです。ボルトの走りを分析すると、上半身と下半身が同期して動いている瞬間があります。矢野は、これが彼の圧倒的な速さの秘密の一つだと指摘します。

スポーツだけでなく、日常の動作にも応用できます。階段の上り下り、重い物を持つ、立ち上がる。すべてナンバの原理で楽になります。高齢者にとっては、転倒予防や体力維持にもなります。私の母は70代ですが、ナンバ歩きを教えたところ、散歩が楽になり、膝の痛みが軽減したと喜んでいました。


甲野善紀との交流 古武術と身体操法

矢野龍彦のナンバ研究は、古武術研究家の甲野善紀との交流によっても深められてきました。甲野は、日本の古武術に残る身体技法を研究し、現代に蘇らせた第一人者です。二人の共通点は、日本の伝統的身体文化への深い関心と、実践を通じた探求姿勢です。

古武術には、ナンバと共通する身体原理が多く見られます。「腰を入れる」「体の中心から動く」「力まない」。これらはすべて、ナンバ術の核心でもあります。甲野の研究は、矢野にとって大きな刺激となり、ナンバの理論を深化させるきっかけとなりました。

また、矢野は野口整体の創始者・野口晴哉の影響も受けています。野口の「活元運動」や「愉気法」は、身体の自然な動きを引き出すという点でナンバと共鳴します。日本には、西洋医学や西洋スポーツ理論とは異なる、独自の身体智慧の伝統があったのです。

矢野のナンバ術は、こうした日本の身体文化を統合し、現代人が実践できる形に再構成したものです。古くて新しい。伝統でありながら革新的。そんなナンバの魅力は、日本人の身体に眠る可能性を呼び覚ますのです。


現代社会での応用と実践 ナンバ術を日常に取り入れる

矢野龍彦のナンバ術を、私たちはどう日常生活に取り入れられるでしょうか。第一に、ナンバ歩きを試してみることです。最初は難しく感じますが、ゆっくりと、右手と右足を同時に出すことを意識します。慣れてくると、不思議と身体が軽くなり、疲れにくくなります。

第二に、身体の声を聞く習慣を持つことです。痛みや違和感があったら、無理をせず、動きを変えてみる。「どうすれば楽に動けるか」を探求する姿勢が大切です。身体は正直です。正しい動きをすれば、気持ちいいと教えてくれます。

第三に、頑張り感を消す意識を持つことです。力を入れすぎていないか、踏ん張っていないか、捻じっていないか。日常の動作を観察し、無駄な力みを抜いていきます。特に、家事や仕事で疲れを感じるときは、動き方を見直すチャンスです。

第四に、骨で動く感覚を養うことです。筋肉でグイグイ動かすのではなく、骨格の構造を活かして動く。例えば、物を持ち上げるとき、腰を捻じるのではなく、全身を一つの塊として動かす。この感覚は、練習することで必ず身につきます。

第五に、自然を観察することです。猫の歩き方、鳥の飛び方を見てください。無駄がなく、美しく、効率的です。自然界の動きには、身体操法のヒントが満ちています。

私は、通勤時にナンバ歩きを実践しています。最初は周囲の目が気になりましたが、慣れると全く気にならなくなりました。むしろ、歩くのが楽しくなり、疲労感が激減しました。50代になって体力の衰えを感じていましたが、ナンバのおかげで若い頃より元気かもしれません。


代表書籍5冊紹介

1. 『すごい!ナンバ術 疲れず、無理なく、素早い動きに変わる!』(BABジャパン、2024年)

ナンバ術の集大成とも言える最新刊。捻じらない、うねらない、踏ん張らない「平行四辺形システム」が、あらゆる動きを合理化する原理が詳しく解説されています。ナンバ歩き、ナンバ走り、日常動作への応用まで、写真とイラストで分かりやすく説明。ナンバを本格的に学びたい方の決定版です。

2. 『すごい!ナンバ歩き』(河出書房新社)

ナンバ歩きの入門書として最も読まれている一冊。江戸時代の日本人の驚異的な移動能力の秘密が、現代人にも実践できる形で紹介されています。歩き方の基本から、階段の上り下り、荷物の持ち方まで、日常生活ですぐに使える技術が満載。ナンバに興味を持ったら、まずこの本から始めましょう。

3. 『ナンバ式!元気生活 疲れをしらない生活術』(ミシマ社)

ナンバの考え方を日常生活全般に応用した実用書。掃除、洗濯、料理、介護といった家事動作が楽になるコツが具体的に紹介されています。特に中高年や高齢者におすすめ。無理なく動ける身体の使い方を身につけることで、生活の質が劇的に向上します。温かいイラストと文章で、読みやすい一冊。

4. 『「ナンバ走り」を体得するためのトレーニング スポーツ新基本』(MCプレス)

アスリート向けのナンバ走り解説書。短距離走、長距離走におけるナンバの動きの応用が、トレーニング方法とともに詳しく説明されています。陸上競技だけでなく、あらゆるスポーツに応用可能。コーチや指導者、本格的にスポーツに取り組む人に最適な専門書です。

5. DVD『本当のナンバ歩き』(BABジャパン)

矢野龍彦自らが実演・解説するDVD教材。文字や写真では伝わりにくい動きの微妙なニュアンスが、映像で確認できます。ナンバ歩きの基本から、骨体操、全身連動の感覚まで、段階を追って学べる構成。本と合わせて視聴することで、理解が深まります。実践派におすすめです。


まとめ 身体の声を聴く生き方

矢野龍彦は、50年以上にわたり、日本の伝統的身体操法であるナンバ術の研究と普及に尽力してきました。その仕事は、単なる歩き方の指導ではありません。それは、身体と対話し、身体の智慧を信じる生き方を提案するものです。

現代人は、身体を酷使し、痛みを我慢し、無理を重ねています。効率と成果を求めるあまり、身体からのメッセージを無視しています。矢野の教えは、そんな私たちに「立ち止まって、身体の声を聞いてみませんか」と優しく語りかけます。

ナンバ術の素晴らしさは、誰でもすぐに実践でき、効果を実感できることです。特別な道具も場所も要りません。日常の歩き方、立ち方、座り方を少し変えるだけ。その小さな変化が、疲労の軽減、痛みの解消、生活の質の向上につながります。

捻じらない、うねらない、踏ん張らない。この三つの「ない」は、実は深い智慧を含んでいます。無理をしない。力まない。自然に従う。身体の本来の力を信じ、その流れに任せる。それは、生き方そのものへの示唆でもあるのです。

江戸時代の日本人が持っていた身体智慧。それは決して失われたわけではなく、私たちの身体に今も眠っています。矢野龍彦のナンバ術は、その眠れる力を呼び覚ます鍵なのです。身体と対話し、身体に学び、身体と共に生きる。その喜びを、ナンバは教えてくれるのです。

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