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『日本の情報機関』が描く知られざる国家安全保障の最前線

黒人夫婦と愛犬 国家安全保障論
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私たちの平和な日常は、誰がどのように守っているのでしょうか。『日本の情報機関』は、一般にはほとんど知られていない日本の情報収集・分析体制の全貌を、元外務省国際情報局長である孫崎享氏が明らかにした貴重な一冊です。内閣情報調査室、公安調査庁、警察庁、防衛省情報本部…。これらの組織がどのように連携し、インテリジェンス・コミュニティを形成しているのか、そして日本が直面する情報戦の現実と課題を、実務経験者の視点から率直に語っています。2026年の国家情報局創設を控えた今、本書は日本の安全保障を理解するための必読書といえるでしょう。


書籍の基本情報

書籍名: 『日本の情報機関 知られざるインテリジェンスの世界』
著者: 孫崎享(まごさき うける)
出版社: PHP研究所
出版年: 2007年
ページ数: 約240ページ
ジャンル: 国家安全保障論、政治学


日本のインテリジェンス体制 縦割りの壁と調整の苦労

本書が最初に明らかにするのは、日本の情報機関が一元化されておらず、各省庁に分散しているという構造的な特徴です。外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部、警察庁警備局、公安調査庁、そして内閣情報調査室…。これらの組織がそれぞれ独自に情報を収集し、分析しています。

著者の孫崎氏は、この縦割り構造の問題点を率直に指摘します。各省庁が「自分たちの情報」を抱え込み、他省庁との共有に消極的になる傾向があること。情報を提供すれば、自組織の影響力が低下すると考える官僚心理が働くこと。その結果、首相官邸に届く情報が断片的で、全体像を把握しづらくなっているというのです。

しかし、本書を読んで「わかる!」と感じるのは、この問題が単なる組織のエゴではなく、各機関が異なる使命と専門性を持っているからこそ生じる、ある種の必然だという指摘です。外交情報に強い外務省、国内治安に精通する警察庁、軍事情報を扱う防衛省…。それぞれが長年培ってきた専門性と情報源を持っており、簡単に統合できるものではありません。

著者は、2013年に設置された国家安全保障局が、こうした縦割りを超えて政策側の司令塔となったことを評価しつつも、情報収集・分析側の一元化はまだ道半ばだと述べています。2025年、高市政権が国家情報局創設を打ち出したのは、まさにこの課題への対応といえるでしょう。本書は、なぜ日本がこれほど長く情報機関の統合に苦労してきたのか、その歴史的・構造的背景を理解する助けとなります。


情報収集の手法 HUMINTとSIGINTの現実

本書のもう一つの魅力は、情報収集の具体的な手法について、実務者ならではの視点で語っている点です。インテリジェンスの世界では、情報源によって「HUMINT(人的情報)」「SIGINT(通信傍受)」「OSINT(公開情報)」などに分類されますが、日本はどの分野に強く、どの分野に弱いのでしょうか。

孫崎氏は、日本が最も得意とするのは**OSINT(公開情報収集)**だと指摘します。新聞、雑誌、学術論文、政府文書、インターネット情報…。こうした公開情報を丹念に収集・分析することで、驚くほど正確な情報が得られるといいます。実際、CIA(米中央情報局)の情報の8割は公開情報から得られているとも言われています。日本の分析官は、語学力と分析力を武器に、この分野で高い評価を得ているそうです。

一方、日本が決定的に弱いのがHUMINT(人的情報収集)、つまりスパイ活動です。欧米諸国が海外に諜報員を派遣し、現地協力者(エージェント)を獲得して機密情報を入手しているのに対し、日本にはそのような専門の対外諜報機関が存在しません。著者は「日本は目も耳も持っているが、足がない」と表現しています。

この背景には、戦前の特務機関への反省や、憲法上の制約、国民感情などがあります。しかし、情報戦が国家の死活問題となる現代において、この弱点は深刻だと著者は警鐘を鳴らします。北朝鮮の核開発、中国の軍事動向、テロリストの活動計画…。こうした情報は公開されておらず、HUMINTなしには入手できないのです。

また、防諜機関(カウンターインテリジェンス)の不備も指摘されています。日本には、外国のスパイ活動を取り締まる専門機関や、スパイ防止法がありません。その結果、北朝鮮による拉致事件、中国のサイバースパイ活動、ロシアの情報工作など、日本は「スパイ天国」と揶揄されるほど無防備な状態が続いてきました。本書を読むと、情報戦における日本の立ち位置が、いかに危うい

ものかが実感できます。


インテリジェンス・コミュニティの課題 政治と情報の距離

本書で最も考えさせられるのは、政治家と情報機関の関係についての記述です。著者は、日本の政治家の多くが、インテリジェンスの重要性を理解していないと嘆きます。情報機関が提供する分析レポートを読まない、情報官との面会時間を十分に取らない、そして何より、「情報」と「インテリジェンス」の違いを理解していない…。

ここで孫崎氏が強調するのは、「情報(インフォメーション)」と「インテリジェンス」は全く別物だということです。情報とは、未加工の生データ。インテリジェンスとは、複数の情報を収集し、信憑性を検証し、文脈の中で分析し、政策判断に資する形に加工した「知的生産物」です。テレビのニュースを見れば情報は得られますが、それだけでは正しい判断はできません。

著者が紹介する印象的なエピソードがあります。ある首相が、重要な外交判断をテレビニュースの情報だけで行おうとしたため、情報官が「それでは不十分です。インテリジェンスが必要です」と進言したところ、首相は「ニュースで十分だ」と取り合わなかったというのです。この姿勢が、日本の情報軽視文化を象徴しているといえるでしょう。

一方で、本書は希望も示しています。近年、特に2013年の国家安全保障局設置以降、政治家の意識が少しずつ変わってきていること。インテリジェンス・コミュニティとしての一体感が高まってきていること。そして2025年、高市政権が国家情報局創設とインテリジェンス機能強化を公約に掲げたことは、大きな前進だと評価できます。

ただし著者は警告します。組織を作るだけでは意味がない。重要なのは、優秀な人材の確保、十分な予算、そして何より、政治指導者がインテリジェンスを重視し、適切に活用する文化を根付かせることだと。本書は、読者一人ひとりに、国家安全保障における情報の重要性を考えるきっかけを与えてくれます。


同盟国との情報共有 ファイブ・アイズへの道

本書が詳しく解説するもう一つの重要なテーマが、同盟国との情報共有です。国際的な安全保障環境において、一国だけで完結する情報活動はあり得ません。特に、英米豪加新の5カ国が形成する情報同盟「ファイブ・アイズ」は、世界最強の情報ネットワークとして知られています。

孫崎氏は、日本が米国と緊密な情報関係を持ちながらも、ファイブ・アイズのような完全な情報共有には至っていない現実を率直に語ります。その理由は、日本の情報保全体制への不安です。機密を守る法制度が不十分で、情報漏洩のリスクが高いと見られているのです。

2013年に特定秘密保護法が制定され、状況は改善しつつあります。しかし、スパイ防止法がなく、防諜機関が不十分な現状では、諸外国から完全な信頼を得るのは難しいというのが著者の見立てです。情報共有は相互主義です。日本が重要な情報を受け取りたければ、日本も機密を守り、価値ある情報を提供できる体制を整えなければなりません。

本書を読むと、情報同盟が単なる「情報交換」ではなく、深い信頼関係と制度的保証に基づくものであることがわかります。2025年現在、日本は「ファイブ・アイズ・プラス」として協力関係を深めていますが、正式メンバーへの道はまだ遠いのが現実です。しかし、国家情報局の創設とスパイ防止法の検討が進めば、その日も近いかもしれません。


現代社会での応用と実践 市民として知るべきインテリジェンスの重要性

本書が出版されたのは2007年ですが、その指摘は2025年の今、むしろ重要性を増しています。サイバー攻撃、偽情報工作、経済安全保障…。情報戦の舞台は、もはや国家機関だけの世界ではありません。企業も、大学も、そして私たち一人ひとりも、情報戦の当事者となっているのです。

2025年には、中国やロシアによるサイバー攻撃が、日本の重要インフラや企業を標的としています。SNS上では、国家が支援する偽情報アカウントが、日本の世論を分断しようと活動しています。こうした「見えない戦争」において、インテリジェンス能力は国家存立の基盤といえるでしょう。

では、私たち市民には何ができるのでしょうか。本書は、まず「情報の重要性を理解すること」だと教えてくれます。政治家を選ぶとき、国家安全保障政策、特にインテリジェンス機能強化を重視する候補者を支持すること。企業人であれば、自社の機密情報を守り、外国のスパイ活動に警戒すること。学生であれば、国際情勢を学び、批判的思考力を養うこと。

また、情報リテラシーを高めることも重要です。SNSで流れる情報を無批判に信じず、複数の信頼できる情報源を確認すること。フェイクニュースや偽情報を見抜く力を養うこと。これは、個人レベルでの「インテリジェンス能力」といえるでしょう。

2026年の国家情報局創設は、日本のインテリジェンス体制にとって歴史的な転換点となるでしょう。しかし、組織だけでは不十分です。国民一人ひとりが、情報の重要性を理解し、国家安全保障を自分事として考える文化が根付いて初めて、真の情報強国となれるのです。本書は、その第一歩を踏み出すための知識と視点を提供してくれます。

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銀河系

筆者の感想 この本が開く国家安全保障への新しい視座

『日本の情報機関』を読んで、私が最も印象に残ったのは、情報の世界には絶対の正解がないという著者の言葉です。インテリジェンスとは、限られた断片的な情報から、最も確からしい結論を導き出す営みです。そこには、分析官の洞察力、経験、そして時には直感も必要とされます。

孫崎氏の語り口は、決して説教臭くありません。むしろ、長年情報の最前線で働いてきた実務者として、日本の情報体制の弱点を率直に認め、改善への道筋を誠実に示そうとする姿勢が貫かれています。読者を責めるのではなく、「一緒に考えよう」と優しく誘ってくれるのです。

特に心に残ったのは、「情報機関の仕事は、戦争を防ぐこと」という一節です。優れたインテリジェンスがあれば、敵の意図を正確に把握でき、誤解や偶発的な衝突を避けられます。逆に、情報が不足していれば、過剰な警戒や誤った判断が、取り返しのつかない事態を招きかねません。平和を守るために、情報機関が日夜働いている…。この事実を知ることで、私たちの安全保障への見方が変わるのではないでしょうか。

本書は、決して「危機を煽る」内容ではありません。むしろ、冷静に現実を見つめ、日本が直面する課題を理解し、できることから始めようと勇気づけてくれる一冊です。2025年、国家情報局創設という歴史的な転換期を迎える今だからこそ、多くの人に読んでいただきたい本だと感じました。


どんな方に読んでもらいたいか

この本は、老若男女を問わず、日本の安全保障に関心があるすべての人にお勧めできる一冊ですが、特に以下のような方には強く読んでいただきたいと思います。

  • 国際情勢や安全保障に関心がある方: ニュースで報じられる外交・安全保障問題の背後で、情報機関がどのような役割を果たしているのかが理解できます。
  • 公務員や政治家を目指す方: 国家の意思決定において、インテリジェンスがいかに重要かを知ることで、将来のキャリアに活かせる視点が得られます。
  • ビジネスパーソンや経営者の方: 企業の機密情報保護、経済安全保障、産業スパイ対策など、民間レベルでも応用できる知識が満載です。
  • 教育関係者や保護者の方: 次世代を担う若者に、情報リテラシーや批判的思考の重要性を教える上で、本書の知見は非常に有益です。
  • 歴史や政治学を学ぶ学生の方: 教科書には載っていない、インテリジェンスという視点から国際関係を理解することで、学びが一層深まります。
  • メディア関係者の方: 情報と報道の関係、フェイクニュースや偽情報への対処など、ジャーナリズムの本質を考える上で重要な示唆が得られます。
  • 日本の将来を真剣に考える市民の方: 選挙で誰に投票するか、どんな政策を支持するか。本書を読むことで、安全保障政策を評価する確かな基準が得られます。

この本は、専門家だけのものではありません。むしろ、民主主義国家である日本の主権者である私たち一人ひとりが、国家安全保障の基盤であるインテリジェンスについて理解を深めるための、最良の入門書なのです。


関連書籍5冊紹介

1. 『インテリジェンス入門 利益を実現する知識の創造』北岡元著

元公安調査庁長官による、インテリジェンスの理論と実践を体系的に解説した名著。情報収集からインテリジェンス・サイクル、カウンターインテリジェンスまで、本格的な知識が得られます。『日本の情報機関』と合わせて読むことで、インテリジェンスへの理解が完成します。

2. 『国家情報戦略』北岡元著

同じく北岡元氏による、国家としての情報戦略を論じた一冊。日本が情報戦でどのように生き残るべきか、具体的な戦略と提言が示されています。特に、2025年の国家情報局創設を理解する上で、必読の書といえるでしょう。

3. 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』矢部宏治著

日本の安全保障政策の構造的問題を、在日米軍基地と原子力政策を通じて解き明かした問題作。情報機関の話とは直接関係ありませんが、日米関係の深層を理解することで、情報同盟の意味がより深く理解できます。

4. 『日本型組織の病を考える』村木厚子著

元厚生労働事務次官による、日本の官僚組織の問題点を内側から語った一冊。縦割り行政、セクショナリズム、情報共有の困難さなど、『日本の情報機関』で指摘された問題の根深さが理解できます。組織論としても示唆に富む内容です。

5. 『サイバー戦争の今』土屋大洋著

慶應義塾大学教授による、現代のサイバー空間における情報戦を解説した一冊。国家によるサイバー攻撃、偽情報工作、選挙介入など、2025年の現在進行形の脅威が詳しく分析されています。『日本の情報機関』の現代版ともいえる内容で、両者を読むことで情報戦の全体像が見えてきます。


まとめ 情報こそが国家を守る時代に

『日本の情報機関』は、私たちに重要なメッセージを伝えてくれます。21世紀は情報の時代であり、優れたインテリジェンス能力なくして、国家の安全も繁栄もあり得ないのだと。

本書が描く日本の情報体制は、決して完璧ではありません。縦割りの弊害、HUMINT能力の不足、防諜機関の欠如、政治家の意識の低さ…。多くの課題が山積しています。しかし同時に、本書は希望も示してくれます。内閣情報調査室から国家情報局への格上げ、インテリジェンス・コミュニティの一体感の向上、特定秘密保護法の制定、そして国家安全保障局の設置…。少しずつですが、日本は確実に前進しているのです。

2026年に創設される国家情報局は、日本の情報史における画期的な一歩となるでしょう。しかし、組織を作ることがゴールではありません。優秀な人材を集め、育て、適切な予算を配分し、政治指導者がインテリジェンスを重視する文化を根付かせる…。これらすべてが実現して初めて、日本は真の情報強国となれるのです。

そして何より、私たち国民一人ひとりが、情報の重要性を理解し、国家安全保障を自分事として考えることが不可欠です。本書は、そのための知識と視点を、温かく、わかりやすく提供してくれる最良のガイドです。

2025年、激動する国際情勢の中で、日本は多くの脅威に直面しています。しかし、正しいインテリジェンスがあれば、危機を予測し、適切に対処し、平和を守ることができます。この本を読むことが、より安全で豊かな日本の未来を築く、小さいけれど確かな一歩となるはずです。

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