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『目に見えぬ侵略』が暴く中国の影響力工作の実態

黒人シニア夫婦と孫娘と愛犬 国家安全保障論
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銃弾の飛ばない戦争が、あなたの国で静かに進行しているとしたら、あなたは気づくでしょうか。オーストラリアの政治学者クライブ・ハミルトンが著した『目に見えぬ侵略―中国のオーストラリア支配計画』は、中国共産党による組織的な影響力工作が、いかに民主主義国家を内部から侵食しているかを、膨大な証拠とともに暴露した衝撃の書です。政治献金、大学への浸透、孔子学院を通じた文化工作、メディアコントロール、シャープ・パワーの行使。2025年、日豪が安全保障協力を深化させる今、ハミルトンが示す経済的威圧と統一戦線工作の実態は、もはやオーストラリアだけの問題ではありません。内政干渉という名の目に見えぬ侵略は、日本にも確実に及んでいるのです。

書籍の基本情報

書籍名:『目に見えぬ侵略―中国のオーストラリア支配計画』
原題:Silent Invasion: China’s Influence in Australia
著者:クライブ・ハミルトン
訳者:奥山真司
出版社:飛鳥新社
初版発行:2020年(原著2018年)
ページ数:約480ページ
価格:2,400円前後(税別)

クライブ・ハミルトンはオーストラリアのチャールズ・スタート大学教授で、公共倫理と環境政策の専門家です。本書の執筆中、出版社が中国からの圧力を恐れて契約を破棄するという事態が起き、それ自体が中国の影響力の大きさを証明する出来事となりました。出版されること自体が戦いだった一冊なのです。

政治献金と買収が侵食する民主主義の根幹

ハミルトンが最初に詳述するのは、中国系実業家による政治献金と政治家の買収です。オーストラリアでは、中国共産党と深い関係を持つ実業家たちが、主要政党に多額の献金を行い、政策決定に影響を与えてきました。

特に衝撃的なのは、元外相や首相経験者までもが、中国企業の顧問に就任し、中国寄りの発言を繰り返している実態です。ハミルトンは実名を挙げて、具体的な献金額、就任した役職、その後の言動を記録していきます。これは決して陰謀論ではなく、公開情報に基づいた事実の積み重ねなのです。

また、地方議員レベルでも中国の浸透は進んでいます。中国系住民が多い選挙区では、中国コミュニティの支持を得ることが当選の鍵となり、結果として中国寄りの政治家が生まれる構造ができています。これが民主主義の仕組みを逆手に取った、巧妙な統一戦線工作なのだとハミルトンは指摘します。

読んでいて恐ろしくなるのは、これらの工作が決して秘密裏に行われているのではなく、合法的な枠組みの中で、堂々と進行しているということです。献金は合法、企業顧問への就任も合法。しかし、その背後に中国共産党の意図があり、組織的に行われているとすれば、それは実質的な内政干渉です。

ハミルトンは怒りに満ちた告発ではなく、むしろ悲しみを込めて、民主主義が自らの開放性によって脆弱になっている現実を描きます。その誠実な語り口が、読者に深い共感を呼び起こすのです。

超新星爆発

大学と孔子学院を通じた思想統制の試み

本書の中核部分の一つが、教育機関、特に大学への中国の浸透です。オーストラリアの大学は、中国人留学生からの授業料収入に大きく依存しています。一部の大学では、収入の4分の1以上が中国人留学生によるものです。

この経済的依存が、大学の自主性を損なっていると

ハミルトンは警告します。中国政府が不快に思う研究テーマ、たとえば天安門事件、チベット問題、ウイグル問題などについて、大学側が自主規制を始めているのです。研究者は中国からの反発を恐れ、口をつぐむ。これは学問の自由への深刻な脅威です。

さらに問題なのが、孔子学院の存在です。中国政府が資金を出し、世界中の大学に設置されている中国語・中国文化の教育機関。一見すると文化交流の拠点ですが、ハミルトンは豊富な証拠をもとに、これが実質的なプロパガンダ機関であり、スパイ活動の拠点にもなっていると主張します。

教室では中国共産党に都合の良い歴史が教えられ、都合の悪い事実は隠蔽される。学生たちは知らず知らずのうちに、中国の視点を「正しい見方」として刷り込まれていく。この思想統制こそが、シャープ・パワーの本質なのです。

2025年、日本でも複数の大学が孔子学院との関係を見直し始めています。ハミルトンが10年近く前に警告したことが、今ようやく現実の問題として認識され始めているのです。読んでいて感じるのは、彼の先見性と、同時に、私たちの認識の遅さへの焦りです。

メディア買収と情報統制が作る偏った世論

ハミルトンが詳しく分析するもう一つの重要なテーマが、メディアへの浸透と情報統制です。中国企業や中国系実業家が、オーストラリアのメディア企業の株式を買い、経営に影響力を及ぼしています。

特に深刻なのは、中国語メディアです。オーストラリア国内の中国語新聞、テレビ、ラジオの多くが、直接的あるいは間接的に中国政府の影響下にあります。その結果、中国系住民は、中国共産党の視点からしか情報を得られない状況に置かれているのです。

ハミルトンが紹介する事例は衝撃的です。天安門事件30周年の際、オーストラリアの中国語メディアは、事件について一切報道しませんでした。香港の民主化デモについても、「暴徒による暴動」としか報じられません。ウイグルやチベットの人権問題は、完全に無視されます。

この情報統制は、中国系コミュニティを中国共産党の影響下に置き続けるために不可欠な仕組みです。そして、そのコミュニティの票が、前述の政治家の当選を左右する。こうして、メディア→世論→政治という影響力の連鎖が完成するのです。

また、主流メディアに対しても、広告収入という形で影響力が行使されています。中国企業からの広告が重要な収入源となっている新聞社は、中国批判の記事を書きにくくなります。経済的威圧というソフトな圧力が、報道の自由を静かに蝕んでいくのです。

読んでいて考えさせられるのは、これが決してオーストラリアだけの問題ではないということです。日本のメディアにも中国企業の広告が溢れています。私たちが目にするニュースは、本当に自由な報道なのでしょうか。

経済的依存が生む安全保障上の脆弱性

本書の後半で、ハミルトンが焦点を当てるのは、経済的依存が安全保障にもたらすリスクです。オーストラリアの最大の貿易相手国は中国です。鉄鉱石、石炭、農産物など、主要な輸出品の多くが中国向けです。

この経済的依存が、政治的な従属を生むとハミルトンは警告します。2020年、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源調査を求めたとき、中国は報復として大麦、ワイン、牛肉などに高関税を課しました。これが経済的威圧の典型例です。

さらに深刻なのは、重要インフラへの中国企業の参入です。港湾、電力網、通信網といった国家の基盤となるインフラに、中国企業が関与している。これは有事の際、中国がオーストラリアの生命線を握ることを意味します。

ハミルトンは、短期的な経済利益のために長期的な国家安全保障を犠牲にすることの危険性を説きます。お金で買えるものと買えないもの、その区別を見誤ってはいけないと。2025年、オーストラリアと日本が安全保障協力を強化しているのは、まさにこの認識に基づいています。

また、ハミルトンが提案するのは、経済的依存からの脱却です。サプライチェーンの多様化、同盟国との連携強化、重要技術の国産化。これらは一朝一夕には実現できませんが、長期的な国家戦略として不可欠だと。

読んでいて勇気づけられるのは、ハミルトンが決して絶望していないことです。問題は深刻だが、まだ取り返しがつく。そのために必要なのは、国民の覚醒と、政治家の勇気だと。その希望のメッセージが、本書を単なる告発書以上のものにしています。

日本への警告として読むべき現実

ハミルトンは本書の中で、日本についても言及しています。オーストラリアで起きていることは、程度の差こそあれ、日本でも進行していると。

実際、日本でも中国系企業による土地買収、政治家への接近、大学への浸透、メディアへの影響力行使が報告されています。孔子学院は日本にも複数存在し、その活動内容に疑問を呈する声が上がっています。統一戦線工作の対象として、日本は中国にとって最重要国の一つなのです。

ハミルトンが指摘するのは、日本の特殊性です。日本は島国であり、中国系移民の数はオーストラリアほど多くありません。また、歴史的な関係から、中国への警戒心も根強い。これらの要因が、日本をオーストラリアほど脆弱にはしていないと。

しかし同時に、日本固有の弱点もあります。スパイ防止法がないこと、情報機関が脆弱であること、そして何より、多くの国民がこの問題に無関心であること。知らないことこそが、最大の脆弱性なのだとハミルトンは警告します。

2025年、高市政権が国家情報局創設とスパイ防止法制定を掲げたのは、ようやく日本政府がこの脅威を認識し始めた証拠かもしれません。しかし、法律だけでは不十分です。国民一人一人が、目に見えぬ侵略の実態を理解し、警戒心を持つことが不可欠なのです。

現代社会での応用と実践を考える

『目に見えぬ侵略』が示す知識は、私たちの日常生活にどう関わるのでしょうか。

まず、情報リテラシーの向上が不可欠です。ニュースを見るとき、誰が発信しているのか、背後にどんな意図があるのかを考える習慣。SNSで流れてくる情報を鵜呑みにせず、複数の情報源を確認する姿勢。これらは、情報統制に対抗する武器です。

ビジネスの場面でも、リスク管理として中国依存度を見直す動きが広がっています。サプライチェーンの多様化、重要技術の流出防止、取引先の背景調査。これらは単なる経済合理性ではなく、安全保障の観点からも重要になっています。

学術機関に関わる方は、研究の自由と資金源の関係を意識する必要があります。中国からの研究資金は、どんな条件が付いているのか。共同研究の相手は、どんな組織に属しているのか。こうした慎重な姿勢が、学問の独立性を守ります。

そして何より、有権者として政治家の言動を監視すること。どの政治家が中国寄りの発言をしているのか、その背後に献金や利権がないか。民主主義社会では、国民の監視こそが最大の抑止力なのです。

ハミルトンが繰り返し強調するのは、これは中国人や中国文化への敵対ではないということです。問題なのは中国共産党の組織的な工作であり、民主主義の価値を守るための戦いなのだと。その冷静で理性的な姿勢を、私たちも学ぶべきでしょう。

どんな方に読んでもらいたいか

この本は、まず国際情勢や安全保障に関心がある方すべてにお勧めしたい一冊です。中国の影響力工作という、目に見えない脅威の実態を、これほど詳細に記録した書籍は他にありません。

ビジネスパーソン、特に中国との取引がある方にも強く推奨します。経済的依存が安全保障リスクになるメカニズムを理解することで、より慎重な経営判断ができるようになります。

大学関係者、研究者、教育者の皆さんにもぜひ読んでいただきたいです。学問の自由が、知らず知らずのうちに脅かされている現実。それに気づき、対抗することが、教育の独立性を守る第一歩です。

政治家、公務員、政策立案に関わる方にも必読書です。オーストラリアで起きた失敗を繰り返さないために、日本はどんな対策を取るべきか。その答えのヒントが、この本には詰まっています。

メディア関係者、ジャーナリストの皆さんにもお勧めします。報道の自由が、経済的圧力によって静かに侵食されている現実。それを直視し、報道の独立性を守る覚悟が求められています。

そして何より、民主主義社会に生きるすべての人に読んでほしい。自由は、守らなければ失われます。そして守るためには、まず脅威を知ることから始まるのです。

関連書籍5冊紹介

1. 『見えない手―中国共産党は世界をどう作り変えるか』クライブ・ハミルトン、マレイケ・オールバーグ著

本書の続編とも言える大著。今度は舞台をヨーロッパに移し、ドイツ、フランス、イギリスなどでの中国の影響力工作を詳述。オーストラリアと同じパターンが、欧州でも繰り返されている実態を明らかにします。

2. 『中国の情報機関―世界を席巻する特務工作』柏原竜一著

中国の情報機関の組織、活動、歴史を包括的に解説。国家安全部、人民解放軍総参謀部、統一戦線工作部など、本書で言及される組織の実態を理解するための必読書です。

3. 『日本人が知らない世界のインテリジェンス』黒井文太郎著

世界の諜報機関の実態をわかりやすく解説。中国の工作活動を、グローバルなインテリジェンスの文脈で理解するための入門書として最適です。

4. 『日本にスパイ防止法がない理由』江崎道朗著

なぜ日本だけがスパイ防止法を持たないのか。その歴史的経緯と現在の危機を明らかにする。本書と合わせて読むことで、日本の脆弱性の根本原因が理解できます。

5. 『チャイナ・セブン―紅い皇帝・習近平と息子たち』遠藤誉著

中国共産党指導部の人間関係と権力構造を詳述。影響力工作の背後にいる意思決定者たちの素顔を知ることで、本書の内容がより立体的に理解できます。

まとめ

『目に見えぬ侵略』は、民主主義社会が直面する新しい形の脅威を、勇気を持って告発した記念碑的な一冊です。クライブ・ハミルトンが伝えたいのは、恐怖心を煽ることではなく、むしろ「知ることで守れる」というメッセージです。中国共産党による影響力工作は、政治献金、大学浸透、メディアコントロール、経済的威圧という複数の手段を組み合わせた、極めて組織的なものです。そしてそれは、民主主義の開放性と自由を逆手に取った、巧妙な戦略なのです。2025年、オーストラリアと日本が安全保障協力を深化させる今、ハミルトンが10年近く前に発した警告は、ますます現実味を帯びています。目に見えぬ侵略は、遠い国の話ではありません。私たちの社会に、今この瞬間も進行しているのです。しかし、絶望する必要はありません。認識し、警戒し、対策を講じる。それができれば、民主主義は十分に強靭です。この本を読んで、あなた自身の目で現実を見つめ、あなた自身の頭で考えてください。それこそが、自由を守る第一歩なのですから。

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