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【兼原信克】国家安全保障局を創った実務家が語る日本の針路

赤ちゃんとオランウータン 国家安全保障論の著者
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日本の安全保障体制を根本から変えた男、兼原信克。第二次安倍政権で内閣官房副長官補兼国家安全保障局次長を務め、国家安全保障会議(NSC)と国家安全保障局(NSS)の創設に中心的役割を果たしました。

外務省で国際法、日米安保、ロシア問題を専門とし、在米・在韓日本大使館公使、外務省国際法局長を歴任。政策立案の最前線で40年近く日本外交を支えてきた兼原の言葉には、理論と実践が融合した重みがあります。退官後も同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事として、台湾有事、対中戦略、経済安全保障など喫緊の課題について発信を続けています。

『安全保障戦略』『日本の対中大戦略』『歴史の教訓』など数々の著作で、複雑な国際情勢を分かりやすく解説する兼原は、日本が生き残るための戦略を問い続けているのです。


著者の基本情報

兼原信克(かねはら・のぶかつ)

  • 生年:1959年1月22日
  • 出身地:山口県阿武町
  • 学歴:山口県立萩高等学校、東京大学法学部第二類卒業(1981年)、フランス国立行政学院留学
  • 経歴:1981年外務省入省、条約局法規課長、北米局日米安全保障条約課長、在米日本大使館公使、総合外交政策局総務課長、欧州局参事官、在韓日本大使館公使、内閣官房内閣情報調査室次長、外務省国際法局長、2012年内閣官房副長官補、2014年内閣官房副長官補兼国家安全保障局次長、2019年退官
  • 現職:同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事
  • 専門:国際法、安全保障、日米関係、ロシア(領土問題)
  • 受賞:レジオンドヌール勲章シュヴァリエ章(2018年、フランス政府)
  • 主な著書:『戦略外交原論』『歴史の教訓』『安全保障戦略』『日本の対中大戦略』『日本人のための安全保障入門』

兼原信克は山口県に生まれ、東京大学法学部を卒業後、外務省に入省しました。フランス語研修員としてフランス国立行政学院で学び、欧州共同体(EC)政府代表部、在米・在韓大使館で勤務。国際法と安全保障を専門とし、特に日米安保条約、領土問題、インテリジェンスの分野で活躍しました。


国家安全保障局の創設 官邸機能強化の立役者

兼原信克の最大の功績は、国家安全保障会議(NSC)と国家安全保障局(NSS)の創設に中心的役割を果たしたことです。2012年、第二次安倍政権が発足すると、兼原は内閣官房副長官補に就任。2014年には国家安全保障局次長を兼務し、初代局長の谷内正太郎氏の懐刀として、新組織の立ち上げを主導しました。

それまでの日本には、安全保障政策を総合的に立案・調整する司令塔がありませんでした。外務省、防衛省、警察庁、経済産業省など各省庁がバラバラに動き、首相官邸のリーダーシップが弱かった。これを変えるために創設されたのがNSCとNSSです。NSCは「日本版NSC」として、首相を中心に安全保障の重要事項を決定する会議体。NSSはそれを支える事務局です。

兼原が強調するのは、政治主導とシビリアンコントロールの徹底です。民主主義国家では、軍事は政治に従属します。自衛隊はプロフェッショナルとして優れた軍事的選択肢を提示しますが、最終決定は政治家が行う。そのためには、首相官邸に専門的知見を持つスタッフが必要です。NSSがその役割を果たすのです。

兼原自身、7年間にわたり国家安全保障局次長として、数々の危機に対処しました。北朝鮮のミサイル発射、中国公船の尖閣諸島周辺での活動、南シナ海の軍事拠点化。こうした事案に24時間体制で対応し、首相に的確な助言を提供する。理論を実践に移す。それが兼原の仕事でした。

私は、兼原の著作を読んで、官邸の中で何が起きているかを初めて理解しました。ニュースで見る総理の決断の背後には、こうした緻密な準備と組織があるのだと。兼原の言葉は、机上の空論ではなく、現場の経験に基づいているからこそ、説得力があるのです。


対中大戦略の構築 関与と抑止のバランス

兼原信克の現代的テーマが、対中戦略です。中国の経済的・軍事的台頭は、日本にとって最大の安全保障課題です。兼原が提唱するのは「関与と抑止のバランス」です。中国を敵視するのでも、盲目的に信頼するのでもなく、冷静に戦略を立てる。

『日本の対中大戦略』(2021年)で、兼原は明確な方針を示しています。第一に、自由主義的国際秩序を守ること。ルールに基づく国際秩序は、日本の繁栄の基盤です。中国がこれを無視するなら、日本は断固として対抗します。第二に、経済的相互依存を維持すること。中国は巨大な市場であり、完全なデカップリングは日本の国益に反します。第三に、軍事的抑止力を強化すること。日米同盟を基軸に、自衛隊の能力を高め、中国の冒険主義を抑止します。

兼原が特に警鐘を鳴らすのが、台湾有事です。中国が台湾に武力侵攻すれば、日本も巻き込まれる可能性が高い。在日米軍基地が攻撃対象になり、日本のシーレーンが脅かされます。台湾有事は日本有事なのです。だからこそ、抑止力を高め、中国に「台湾侵攻は割に合わない」と思わせることが重要です。

また、兼原は経済安全保障の重要性も説きます。半導体、レアアース、医薬品。これらの戦略物資を中国に依存することは、安全保障上のリスクです。サプライチェーンの多様化、国内生産の強化。経済と安全保障は分離できない時代になったのです。

兼原の対中戦略は、バランスが取れています。強硬一辺倒でもなく、融和的でもない。現実を冷静に見つめ、最善の選択肢を探る。その姿勢が、兼原の提言の信頼性を支えています。


歴史の教訓 失敗の本質から学ぶ

兼原信克のもう一つの重要なテーマが、歴史から学ぶ姿勢です。2020年に出版された『歴史の教訓――「失敗の本質」と国家戦略』は、戦前日本の失敗を現代の視点で分析した力作です。

兼原が問うのは、「なぜ日本は太平洋戦争に突入したのか」という問いです。勝てない戦争になぜ突き進んだのか。その答えは、戦略の不在、政軍関係の歪み、情報の軽視にありました。陸軍と海軍がバラバラに動き、首相のリーダーシップが弱かった。インテリジェンスが軽視され、希望的観測が支配した。こうした失敗は、現代にも教訓を与えます。

兼原は、戦略研究の古典『失敗の本質』(戸部良一ほか)を高く評価しつつ、それを現代の安全保障政策に活かす方法を提示します。組織の縦割り、意思決定の曖昧さ、責任の所在不明。これらは戦前日本の病理であり、現代日本も抱える課題です。歴史を知ることで、同じ過ちを繰り返さない。それが兼原のメッセージです。

また、兼原は日露戦争の成功にも注目します。明治日本はなぜ大国ロシアに勝てたのか。それは、明確な戦略、政軍の協調、同盟外交(日英同盟)があったからです。小国が大国に勝つには、智慧と戦略が必要です。現代日本も、同じ条件にあります。中国という大国に対峙する日本は、明治の先人に学ぶべきことが多いのです。


日米同盟の深化 価値観を共有する同盟へ

兼原信克の専門分野の一つが、日米同盟です。外務省で日米安全保障条約課長を務め、在米日本大使館公使として現地で同盟関係を肌で感じてきました。兼原が強調するのは、日米同盟が単なる軍事同盟から、価値観を共有する同盟へと深化していることです。

冷戦期の日米同盟は、ソ連という共通の脅威に対する防衛協力でした。しかし冷戦後、同盟の意義は変わりました。自由、民主主義、法の支配、人権という普遍的価値を共有し、それを守るための同盟。これが現代の日米同盟です。中国という権威主義国家の台頭に対して、自由主義陣営の結束が重要になっています。

兼原は、日米同盟の課題も率直に指摘します。アメリカの「アメリカ・ファースト」、同盟国への負担要求。トランプ政権期には、同盟の信頼性が揺らぎました。しかし兼原は楽観的です。なぜなら、日米同盟は両国の国益に合致するからです。日本にとってアメリカは唯一の同盟国であり、アメリカにとって日本は最も信頼できるアジアのパートナーです。この相互依存関係は、簡単には崩れません。

兼原が提言するのは、日本の防衛力強化です。アメリカに頼るだけでなく、自らも汗をかく。そうすることで、同盟の信頼性が高まります。安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)に基づく防衛力強化は、まさにその実践です。


ここで少し視線を休めてみてください


現代社会への応用 戦略的思考を身につける

兼原信克の知見は、国家安全保障だけでなく、私たちの日常生活にも応用できます。第一に、長期的視点を持つことです。兼原は常に10年、20年先を見据えて政策を考えてきました。目先の利益に囚われず、長期的な国益を追求する。この姿勢は、ビジネスや人生設計にも通じます。

第二に、組織のリーダーシップの重要性です。NSC創設の経験が示すように、組織は明確なリーダーシップと司令塔なしには機能しません。会社でも家庭でも、誰が最終決定するのか、責任の所在を明確にすることが大切です。

第三に、バランス感覚です。兼原の対中戦略は、関与と抑止のバランスです。一方に偏らず、状況に応じて柔軟に対応する。この中庸の精神は、人間関係やビジネスでも有効です。

第四に、歴史から学ぶ姿勢です。過去の成功と失敗は、未来への教訓です。同じ過ちを繰り返さないために、歴史を知る。個人の人生でも、過去の経験を振り返り、そこから学ぶことが成長につながります。

第五に、情報の重要性です。兼原はインテリジェンスの専門家でもあります。正確な情報なくして、正しい判断はできません。情報リテラシーを高め、フェイクニュースに惑わされない。これは現代人必須の能力です。

私は兼原の著作から、戦略的に考えることの大切さを学びました。目標を明確にし、資源を効率的に配分し、リスクを管理する。こうした思考法は、どんな分野でも応用できるのです。


代表書籍5冊紹介

1. 『戦略外交原論』(日本経済新聞出版社、2011年)

兼原の処女作にして、外交戦略の基礎を論じた名著。国益とは何か、外交とは何か、戦略とはどう立てるのか。外務省での豊富な経験に基づく実践的な外交論。日本外交の課題と展望を明快に示した一冊。

2. 『歴史の教訓――「失敗の本質」と国家戦略』(新潮新書、2020年)

戦前日本の失敗を分析し、現代への教訓を導き出した力作。政軍関係の歪み、戦略の不在、インテリジェンスの軽視。戦前の病理は現代にも通じる。歴史を知ることで、同じ過ちを繰り返さない智慧が得られる一冊。

3. 『安全保障戦略』(日本経済新聞出版、2021年)

NSC創設の当事者による、日本の安全保障の包括的解説。組織論、戦略論、個別政策まで、あらゆる側面をカバー。日米同盟、対中戦略、経済安全保障、領土問題。日本の安全保障を学ぶための決定版テキスト。

4. 『日本の対中大戦略』(PHP新書、2021年)

中国の台頭にどう対処すべきかを論じた戦略書。関与と抑止のバランス、台湾有事への備え、経済安全保障。対中政策の全体像を明快に示す。中国との付き合い方に悩むすべての人に読んでほしい一冊。

5. 『日本人のための安全保障入門』(日本経済新聞出版、2023年)

最新の国際情勢を踏まえた安全保障入門書。グローバル・サウス、台湾有事、安保3文書、新しい戦場(サイバー・宇宙)まで、幅広いテーマをカバー。分かりやすい解説で、安全保障の基礎から最新動向まで学べる決定版。


まとめ 実務家の知恵が日本を導く

兼原信克は、外交官として、安全保障政策の立案者として、40年近く日本の国益のために尽くしてきました。国家安全保障局の創設という歴史的事業に携わり、数々の危機に対処してきた経験は、かけがえのない財産です。

兼原の強みは、理論と実践の融合にあります。学者のように理論を語りながら、実務家として現場を知っている。抽象的な理念だけでなく、具体的な政策提言ができる。この両立が、兼原の言葉に重みを与えています。

日本は厳しい安全保障環境にあります。中国の台頭、北朝鮮の核、ロシアの脅威。こうした中で、日本はどう生き残るか。兼原の著作は、その問いに答えるための羅針盤です。歴史から学び、現実を見つめ、戦略を立てる。感情ではなく、理性で判断する。


兼原信克という実務家の存在は、日本にとって貴重な財産です。

その知見に学び、戦略的に考え、行動する。それが、不確実な時代を生き抜く道なのです。


ここまで、時間を分けてくださり、ありがとうございます。
もし、まだ少しだけ余白が残っているなら。
もうひとつの視点を。


いづれかの言葉が、ゆっくり馴染みますように。
それぞれの一日を。


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